アリ エマニュエルさんは、AIで制作コストが下がった後に何が残ると見たのか?

カイ@プロダクトマネージャー
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AIで映像の制作コストが下がったら、作り手と仕事をつなぐ仲介役は要らなくなるのか。ハリウッドの大手エージェントで、Endeavor(現WME Group)を共同創業したアリ・エマニュエルさん(Ari Emanuel)は、才能を見つけて組み合わせ、予算や配役をめぐる衝突を収める仕事は当分なくならないと見ています。

2026年10月15日公開のStratecheryでの対話(聞き手は主宰のベン・トンプソンさん)から、その理由をプロダクトの現場に引き寄せて読みます。

AIで安くなるのは、作るほうだけ

対話がAIと創造性に及ぶと、エマニュエルさんはまず、AIは創造性にとって途方もない解放("incredible unlock for creativity")になると言い切っています。続けて出てくるのが、この一文です。

"And I think the cost of production is going to come down in a good way."

制作コストは良い形で下がる、という見立てです。直後には、そのぶん作られるコンテンツが増える、とも話しています。

AIで資料も試作も早く出るようになったのに、決める会議は一向に減らない。そんな感覚、ありませんか?自分の見立てでは、作れる量が増えるほど、作ったものの「どれを、誰の都合で先に出すか」で詰まります。

たとえば、営業が客先で約束してきた機能と、サポートが問い合わせを減らしたくて頼んでいる改修。AIを使えばどちらも1週間で形になるとしても、来月のリリースに載せられるのが片方だけなら、この「片方だけ」は消えません。両方とも作れてしまうぶん、どちらを先に出すかの話し合いはむしろ重くなると自分は考えてます。

AIはスコセッシの代わりになるのか?

聞き手のトンプソンさんは、ここで突っ込みます。それは結局YouTubeに追い風という話で、ハリウッドにとってなぜ良いことなのか、と。

エマニュエルさんは、ベン・アフレックさん、マーティン・スコセッシさん、バズ・ラーマンさん、ラリー・デヴィッドさんといった名前を並べて、こう答えています。

"you need great creative to make great product."

優れた作品には優れた作り手が要る。誰でも優れた映画やドラマを作れるようになるとは思わないし、その穴をAIが埋めるとも思わない、という線引きです。

才能は代わりがきかない、という話自体はAIの議論でよく聞きますよね。自分が引っかかったのはそのあとで、エマニュエルさんの話は、その才能を誰が見つけて誰と組ませるのか、というところへ進んでいきます。

エージェントの本業は、衝突を収めること

エージェントが挙げた予算、俳優、配給、筋書き

"the great thing about being an agent is there's constant conflict — budget, actor, distribution, storylines."

エージェントという仕事のいいところは、衝突が絶えないことだ。予算、俳優、配給、筋書き。衝突を「いいところ」と呼ぶあたりに、この人の仕事観が出ています。

別の場面では、エージェントの仕事の中身をこう分けています。依頼主にとって一番いい条件を取り、お金を見つけてくること。配給や宣伝がきちんと回るようにすること。そして、創造力のある人を見つけて組み合わせ、そこで起きる衝突を解くこと。

お金を見つける部分については、必要な額が減るから楽になる、と言っています。一方、人を見つけて組ませ、衝突を解く部分についてはこうです。

"that is a skill set that I don't think is going away anytime soon."

その技能は当分なくならない。才能を見抜く目利きと、組ませたあとの調整は残る、ということです。楽になるのはお金と作業のほうで、人のほうは楽にならない。本人が自分の仕事の中で、そう切り分けているんですよ。

プロダクトの現場に置き換えると

4つの衝突を、プロダクトの仕事に置き換えてみました。右の列はエマニュエルさんの言葉ではなく、自分の読み替えです。

映画づくりの衝突
プロダクトで起きる形
予算
開発の工数と、使える費用の上限
俳優
どのチームが持ち、誰が担当するか
配給
営業、パートナー、アプリストアなど、どの経路で届けるか
筋書き
ロードマップに何を載せ、何を外すか

AIはどの行でも案を出せます。工数の見積もりも、優先順位の候補も、数分で並びます。ただ、営業部長が客先で約束した機能を次の四半期に回すと決めたとき、その知らせを誰が伝えに行き、何と引き換えに飲んでもらうのか。ここは案の出来では決まりません。

良い案を選ぶ力と、選んだ案を損をする側にも受け入れてもらう力は、別の仕事だと自分は思ってます。ここで調整と呼んでいるのは後者です。

いまのチームで、この4行のうち一番揉めているのはどこでしょうか?

エマニュエルさんの発言を、割り引いて読むところ

まず立場です。エマニュエルさんは今もWME Groupの会長で、UFCとWWEを持つTKO Group HoldingsのCEOも務めています。仲介で成り立つ事業の当事者が「仲介の技能は残る」と言っているわけで、ここは差し引いて聞く必要があります。

そのうえで、本人は入れ替わる人が出ることも隠していません。業界の中にいる人の一部は中抜きされる("There's going to be some disintermediation for people inside the system")と認めています。

挙げている例は具体的です。グリーンスクリーンやライトステージで撮ってAIに渡せば済む、メイクを一度すれば演者は二度とメイクをしなくていい。難しい話し合い("difficult conversations")も出てくる、と付け加えてもいます。

YouTubeについては、YouTubeでもどこでも、エージェントのほうが才能を見つけに行って手を貸す、というのがエマニュエルさんの言い分です。作り手が仲介を通さずに観客へ届く流れがどこまで進むのかは、この対話の中では決着していません。

読み取れるのは線引きのほうです。作業として切り出せる部分は動き、人と人の間に立つ部分は残る。この線は職種を問わずプロダクトの仕事にも引けると思ってて、資料づくりや試作は前者、関係者の利害をほどくのは後者に入ります。

AIで空いた時間を、どの衝突に使うか?

対話のきっかけになった回顧録『Roll the Calls』(2026年9月刊)の題名は、エマニュエルさんが毎日欠かさない電話の習慣から来ている、とトンプソンさんは紹介しています。人と人の間に立つ仕事を、毎日の電話で回してきた人です。

AIで資料づくりや試作が速くなったら、浮いた時間はこの「間に立つ」ほうに回すのが一番効くと自分は見ています。始め方は小さくていいです。

  1. 今週決めることのうち、2つのチームの要望がぶつかっているものを1つ書き出す
  2. AIに、双方の立場から見た得と損を並べさせて、話す前の材料にする
  3. 後回しになる側には、決めた本人が自分で伝えに行く。チャットで済ませず、通話か対面で

1と2はAIに手伝わせて構いません。3だけは手放さないほうがいいです。エマニュエルさんの言う「衝突を解く技能」は、ちょうどそこにあるからです。

作るコストが下がっても、間に立つ仕事は残る。むしろ作れるものが増えるぶん、出番は増えるんじゃないかと自分は考えています。今週、あなたは誰と誰の間に立つ予定ですか?