Ramp Glassは、社員ひとりが見つけたAIの上手な使い方を、会社全員の出発点にするための社内AI基盤です。スタッフの誰かが作った「よく効くプロンプト」が、その人のチャット履歴に埋もれたまま消えていくのって、もったいないですよね。小さい会社でもまねできるのは、スキルの置き場と記憶の置き場の2つだけだと私は考えています。
Ramp Glassとは?
Ramp Glassは、米国の法人カード・経費管理の会社Rampが社内で育ててきたAIの作業場です。2026年10月13日、共同創業者で共同CEOのエリック・グリマンさん(Eric Glyman)が公式ブログで発表しました。
始まりは、AIに積極的な社員がそれぞれ自分用に組んでいた環境を、全員に配る場所として小さなチームが作ったことでした。ブログによると、数週間で「使うツール」から「仕事のやり方」に変わったそうです。
公式ブログが挙げている中身は5つあります。
- Linear、Notion、Google、Slack、Gongなど数十のツールにある会社の知識につながる
- 詰まった作業のセッションを共有して、別の人が入って一緒に終わらせられる
- 1人の一番いい仕事を、スキルとして全員の出発点にできる
- オープン、クローズドどちらのモデルも選べる
- プロジェクトごとにコストのメーターが付き、上限も決められる
今は社外の企業向けにも early access が始まっていて、最初の数社は個別にオンボーディングしている段階です。日本の会社が申し込めるか、日本語で使えるかは確認できていません。
「We learn things once」は何を言っているのか
グリマンさんは、全社員に最高のモデルとトークンを渡しても、AIを使いこなす会社にはならないと書いています。添えられた比喩は「全員にスタインウェイのピアノを渡して交響曲を期待しても、高くつく雑音になるだけ」。
この言葉、数字の裏付けがあるから重いんです。Rampは5月のある1週間だけで、トークン代に150万ドル(約2億2,500万円)を使いました。道具を配るだけでは、お金が出ていくばかりだったわけです。
問題の中心は、個人の良い仕事が個人のところで消えることでした。ブログでは、営業資料の作り方、顧客との通話をアカウントプランにまとめるプロンプト、予算と実績のズレを見つける経理分析の手順が例に挙がっています。どれも作った本人のチャット履歴に残るだけで、隣の人は知りません。
だから「Rampはなぜ速く動けるのか」と聞かれたグリマンさんは、4語で答えました。
We learn things once.
一度覚えたことは、会社として覚え直さない。短い言葉ですが、Glassの機能はどれもこの一文から出てきています。
Ramp Glassで起きたことを数字で見る
わかりやすいのは、英国の顧客数をGlassに聞いた例です。Financeチームが数か月前に「英国に拠点がある米国企業は数えない」と教えていたので、聞いた人が何も説明しなくても正しい数が返ってきました。教えた人と聞いた人が別でも、答えはそろうんです。
この「教える」を、PM、CX担当、営業、マーケター、アナリストの323人が6,500回以上やりました。エンジニアだけの道具になっていないところが大事です。
もう1つの例は、機能要望の記録です。以前は顧客の要望を手作業でSalesforceに写していて、月に約300件でした。5月にアカウントマネージャーが「顧客との通話から要望を自動で拾う」プロンプトをGlassに保存してから、記録は月20,000件になっています。
1人の工夫がスキルとして保存されたことで、会社全体の仕組みになったわけです。
5人の会社では、AIの使い方がどこで消えているのか?
規模はまるで違います。それでも「ひとりの良い仕事が、その人の中で消える」という前提は、小さい会社のほうが深刻だと思ってて。人が少ないぶん、1人が休んだり辞めたりしたときに消える量が大きいからです。
たとえば、こんな場面はありませんか?
- お客様対応: スタッフがクレームの返信を、AIで角の立たない文面にした。でもそのプロンプトはスタッフ個人のアカウントにしかない
- 経理: 社長が「この取引先の振込手数料は先方持ち」とAIに説明して仕訳を整えた。翌月、別の人が同じことを一から説明している
- SNS運用: 反応が良かった投稿文を作ったときの指示が残っていない。担当が休むと、トーンが毎回変わる
1つでも心当たりがあれば、それはRampが全社で解こうとした問題と同じ種類です。
「でも、うちはGlassみたいな基盤を作れないし」って思いますよね。大丈夫です。次のセクションで書くのは、今あるChatGPTやClaudeと共有フォルダで足りる話です。
社内AIの共有に要るのは、スキルの置き場と記憶の置き場
ここからは私からの提案です。Rampの仕組みを5人以下の会社に置き換えると、そろえるものは2つに絞れます。
スキルの置き場は、GoogleドライブでもNotionでも、全員が開ける場所なら何でもいいです。1件ごとに書くのは4つだけ。
- いつ使うか(例: 納期が遅れたお客様へのお詫び)
- プロンプト本文
- うまくいかなかった例(例: 謝りすぎて卑屈な文面になった)
- 最後に直した人と日付
3番が効きます。失敗例が書いてあると、次の人が同じところでつまずきません。
では、AIに同じ説明を何回していますか? 2回を超えているものが、記憶の置き場に入れる候補です。英国の顧客数の例でいう「英国拠点の米国企業は数えない」にあたるものですね。
- 「売上」と言ったら税抜で数える
- お客様の呼び方は「〇〇様」、メールの結びは「引き続きよろしくお願いいたします」
- SNSでは価格の話と、お客様の名前は出さない
この1枚をChatGPTやClaudeのプロジェクト機能に入れておくか、毎回最初に貼るだけで、誰が聞いても同じ前提で答えが返ってきます。
続けるコツは、同じ説明をAIに2回したら書き足すこと。週の終わりに5分、その週に増えたものをみんなで眺めるくらいがちょうどいいと思います。
Ramp Glassの、真似しなくていいところ
Rampは、作業をRamp Routerという自社の仕組みに移してモデルを自動で選ばせ、請求を一晩で30%下げたそうです。プロジェクトごとのコストのメーターも同じで、ある1週間のトークン代が億単位になる会社だから要る仕組みです。数人の会社なら、月額プランの請求を毎月見れば足ります。
もう1つ気をつけたいのが、数字の出どころです。二次記事では社内の利用率や開発体制の数字も紹介されていますが、公式ブログには書かれていません。社内やお客様に話すなら、公式ブログにある数字だけを使うのが安心です。
Glassそのものを今すぐ使えなくても、困ることはありません。今週AIに2回以上説明したことを1つ、共有フォルダに書いてみてください。それが、小さい会社の「We learn things once」の1回目です。

コメント
ログイン か 会員登録 するとコメントできます