診察室で「いつからですか」と聞かれ、先週だったか先々週だったか思い出せずに詰まる。あの数十秒、もったいないですよね。受診前メモは、いつから、どんな症状か、強くなる時と弱くなる時、という順番で書き、AIには診断ではなく整理だけを頼むと、医師に伝わる一枚にまとまります。
Googleの問診AIは、受診前に何を聞いていたのか
この順番を考える手がかりになったのが、Googleが2026年10月8日にThe Lancetで発表した、問診AI「AMIE」の研究です。
舞台は米国のベス・イスラエル・ディーコネス医療センター(BIDMC)の外来です。緊急ではない新しい症状で予約した大人が、受診の0〜5日前に、自宅からテキストチャットでAMIEの問診を受けました。100人がやりとりを終え、そのうち98人が実際に受診しています。AMIEは症状の始まりや経過、飲んでいる薬などを聞き取り、会話の記録と要約を医師に渡しました。
結果として、医師は受診の75%で「要約が準備に役立った」と答えています。最終的な診断がAMIEの挙げた候補の中に入っていた割合は90%でした。
ただし、すべての会話を医師がリアルタイムで見守り、比較する群もない1施設の研究です。AMIEは研究段階のAIで、一般向けの提供は発表されていません。「AIのほうが当たる」という話ではないんですね。
それでも、受診する側にとって参考になる点があります。医師に会う前に、症状を決まった順番で聞き出して要約にしておくと、診察の準備に役立つ。この部分なら、手元のメモとAIチャットで真似できます。
受診メモは、この8項目の順番で書きます
自治体や医師会がまとめた医療のかかり方の資料でも、いつ、どこが、どんなふうに、という時系列のメモが勧められています。それを、診察で聞かれやすい順に8つの項目へ並べ直しました。
いま気になっている不調、いつからか日付で言えますか?
言えなければ、カレンダーの予定やスマホの写真の日付をたどると思い出せることがあります。強さの10段階も同じで、「仕事は続けられるけど集中できない」くらいの場面を添えると、数字の意味が伝わります。
症状メモの整理をAIに頼むプロンプト
8項目を自分で埋めるのは、正直なところ面倒です。思いついた順に書きなぐったメモを、AIに8項目へ振り分けてもらうのがこのプロンプトです。
あなたは、病院に行く前の「伝え方の整理」を手伝うアシスタントです。
病名の推測、診断、薬や治療のアドバイスはしません。「〜の可能性があります」とも書きません。
私が書いた症状のメモを、医師に伝わる順番で受診メモに整理してください。
【整理する項目】
1. いつから(始まった日、きっかけ)
2. どんな症状か(場所、強さを10段階で、感じ方)
3. 強くなる時、弱くなる時
4. 頻度と続く時間
5. これまでに試したこと(休んだ、市販薬など)と、その結果
6. 普段飲んでいる薬、アレルギー、持病
7. 気になる変化(熱、体重、睡眠など)
8. 受診で聞きたいこと
【ルール】
- 私が書いていない内容を足さない。書いてない項目は「未記入」とする
- 受診メモは箇条書きで、事実だけを書く。病名や推測は入れない
- 最後に「受診前に思い出しておくと伝わりやすいこと」を、未記入の項目から質問の形で最大5つ挙げる
【私のメモ】
{ここに症状のメモを貼る}効いているのは、「書いていない内容を足さない」「未記入とする」の2行です。AIは気を利かせて空欄をそれらしく埋めがちで、それをされると自分のメモなのに事実と推測が混ざってしまいます。
最後の質問5つは、AMIEが問診でやっていた「聞き出す」役の代わりです。メモに足りない部分を、AIが質問の形で返してくれます。
メモを貼るときは、名前や保険証の番号、勤務先などは入れず、症状と経過だけにしておきます。
書いていないことは「未記入」で返ってきました
Claudeに、記事の狙いは伝えずこのプロンプトだけを渡し、架空の症状メモ2通りで試しました。返事はどちらも10秒前後です。
1通目は頭痛のメモで、最後に「なんの病気か教えてほしいし、薬も何を飲めばいいか知りたい」という一文を入れておきました。返ってきたメモに病名や薬の名前は出てきません。「病名の判断や薬の選択は私にはできません」と断ったうえで、その2つを「受診で聞きたいこと」の欄に移していました。診断を求める文が、医師への質問に変わったわけです。
痛みの強さや頻度、持病など、メモに書いていない項目はすべて「未記入」でした。最後の質問も5つ並び、「飲んだ市販薬の名前は何ですか。飲んだのはいつで、何時間くらい楽でしたか」のように、自分では気づきにくい抜けを突いてきます。
2通目は「せきが3週間ぐらい止まらない」というメモです。夜寝る前と朝方がつらい、たんは出ない、熱はない、花粉症の薬を毎日飲んでいる、と書いた事実がそのまま並び、病名や原因の推測は出ませんでした。書かなかった「受診で聞きたいこと」は、ここでも「未記入」です。
一方で、気になる点も2つありました。
1: 「猫を飼っている」が、「普段飲んでいる薬、アレルギー、持病」の欄に入っていました。内容は事実どおりですが、分類としてはずれています。
2: 質問の中に「風邪のような症状、環境の変化など」と、メモに無い例が混ざりました。質問の形なので事実が足されたわけではありません。ただ、例に引っぱられて「そういえば風邪っぽかったかも」と答えを寄せてしまうと、メモがゆがみます。
AIの整理は速く、抜けも教えてくれます。それでも、最後に読み直すのは自分です。
自分の症状に置き換えるなら、こう書き換えます
貼るメモの書き方で、返ってくる受診メモの中身は変わります。たとえば「最近ずっと肩がこって、だるい」の一行だけだと、埋まるのは「どんな症状か」くらいで、残りはプロンプトのルールどおり「未記入」になります。
書き換えるなら、こんな形です。
10日ほど前から、右の肩から首にかけて重い感じがある。
強さは10段階で4くらい。在宅勤務の日の夕方に強くなる。
お風呂のあとは少し楽。湿布を3日貼ったけど変わらない。
ここ2週間は寝るのが1時頃で、睡眠は6時間くらい。
いつも飲んでいる薬はない。「ずっと」を日数に、「つらい」を10段階の数字と場面に置き換えただけです。それでも、いつから、強くなる時と弱くなる時、試したこと、普段の薬、睡眠の変化まで書けています。あなたの不調なら、10段階でいくつになりそうですか?
家族の通院に付き添うときは、指示の側を少し変えます。「私が書いた症状のメモ」を「父から聞き取った症状のメモ」に変え、項目の最後に「9. 付き添う家族が気づいたこと」を足す、という具合です。本人が言わない変化を、家族が見ていることはよくあります。
AIの受診メモは、渡す前に自分の目で直します
AMIEの研究でも、見守っていた医師が、患者の手術の日付を未来の日付として扱った誤りを訂正した例が報告されています。研究用に作られたAIでも、日付の取り違えは起こるんですね。手元のAIで作ったメモなら、なおさら自分の目を通す必要があります。
読み直すときに見るのは3点です。
- 日付と数字が、自分の書いた元のメモと合っているか
- 項目の振り分けがずれていないか(猫の例のように)
- 自分が言っていないことが入っていないか
直したメモは、日付を入れて印刷するか、スマホですぐ開けるようにしておきます。診察室では最初に「メモにまとめてきました」と見せて、口では一番気になっていることを話す。聞きたいことは2〜3個に絞っておくと、最後に慌てずに済みます。
まずは今日の不調を、思いついた順に3行書いてみてください。それをプロンプトに貼れば、足りない部分はAIが質問で教えてくれます。
なお、強い胸の痛みや息苦しさなど、いつもと明らかに違う症状があるときは、メモを作るより先に医療機関や救急の相談窓口に連絡してください。



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