診察室では分かったつもりだったのに、家に帰ると医師が何と言っていたか思い出せない。
診察の会話そのものに付き添って、医学用語をその場でやさしい日本語に言い換えて、まだ聞いていない質問まで指摘してくるAIがあります。
日本語にも対応しているのですが、日本で試すとなると先に確かめておきたいことがいくつかありました。
診察中の医師の言葉を、その場でやさしい日本語に言い換えてくれます
厚生労働省の令和5年受療行動調査を見ると、病院の外来で診察にかかった時間は「5分〜10分未満」が40.9%、「5分未満」が28.1%でした。
合わせて約7割が10分未満です。
同じ調査の項目別満足度では、「医師との対話」に満足していると答えた人が62.0%いる一方で、「診察時間」への満足は45.4%にとどまります。
説明の中身に不満があるというより、時間のほうが足りていない。
私はそういう数字だと読んでいます。
10分に満たない時間で、症状の確認と検査の説明と次回の予定が一気に流れていきます。
分からない言葉が出てきても、聞き返すタイミングを探しているうちに次の話に移ってしまう。
Hedy(hedy.ai)というアプリは、その10分に同席します。
スマホを一度タップして診察に入ると、会話をリアルタイムで文字起こししながら、出てきた医学用語をその場で平易な言い方に置き換えて画面に出します。
服薬の指示も追いかけて記録していきます。
ただ、もともと医療のために作られたツールではありません。
会議や商談で「今この場で何を言えばいいか」を教える汎用の会話コーチAIが出自で、受診はその用途の1つです。
あとから受診用の専用ページが用意されました。
作っているのはHedy AI LLCという海外の会社です。
まだ聞いていない質問を、会話の途中で指摘してきます
文字起こしと言い換えだけなら、他にもやっているアプリはあります。
私が興味を持ったのは、会話に割り込んでくる3種類の提案のほうでした。
- Suggestion(提案)は「経験している副作用について聞いてみては」のように、話の流れから聞くべきことを出してくる
- Blind Spot(見落とし)は「家族歴にまだ触れていません。関係するかもしれません」のように、まだ話題に出ていないことを指摘してくる
- Talking Point(話しておくこと)は「前回の薬の変更について切り出しては」のように、こちらから持ち出す話を思い出させる
受診前に質問リストを作っていく、という準備は私も続けています。
ただ紙のリストには限界があって、その日医師が何を言うかに応じて中身が書き換わることはありません。
想定していなかった話が出てきた瞬間に、手元のメモは役に立たなくなります。
会話が進んでいる最中に「まだ聞いていないこと」を出してくる。
事前の準備では埋めきれない部分が、ここだと思いました。
診察が終わると、要点とやることが整理されて残ります
診察が終わると、その日の要点とやることが整理されて出てきます。
過去の記録をまたいで「前回何と言われたか」を質問することもできますし、家族や別の専門医に共有したり、ファイルとして書き出すこともできます。
通院を疾患や診療科ごとにまとめておいて、次の受診の準備メモを前回の記録から作る、という使い方も想定されていました。
ここが効くのは、記憶が思っているより当てにならないからです。
ブラウン大学の公衆衛生大学院が2018年にPLOS ONEで出した論文があります。
専門外来の診察189件を記録して1週間後に患者へ聞き取りをしたところ、その日決まったことや勧められたことのうち、自力で正確に思い出せたのは49%でした。
促されてようやく思い出せたのが36%、間違って覚えていたか全く思い出せなかったのが15%です。
同じ論文では、思い出せなくなる条件も2点挙げられていました。
1回の診察で覚えるべき項目が多いことと、会話のうち医師が話している割合が高いことです。
10分に満たない診察は、この2つがそのまま揃っている場面だと思いました。
症状を聞くAI問診とは、働く時間帯が違います
日本で医療のAIというと、症状を入力すると関連する病気を教えてくれる仕組みを思い浮かべる人が多いはずです。
ただ、それと今回のアプリは別の時間帯で働いています。
ユビーのような症状検索は受診前に使うもので、診察室に入った時点で役目が終わります。
サービス自身も、医療機器ではないため情報提供のみを行い、医学的アドバイスや診断や治療を目的としていないと明記しています。
医師が使う音声カルテのほうは受診中に動きますが、出てくるのは診療録です。
患者がそのまま読んで分かるように作られたものではありません。
患者向けで、受診中に動いて、しかも一方通行でない。
この3つが重なる場所が空いていて、そこに入っているのが今回のアプリです。
日本で試す前に、確かめておきたいことが3つあります
- 同じ名前のアプリが複数あります。日本のApp Storeで「Hedy」と検索すると、古着屋の公式アプリも並んで出てきます。診察で使うのはHedy AI LLCが出している「Hedy:AI会議コーチ・文字起こし」のほうです。医療専用のアプリが別にあるわけではなく、この会議コーチアプリの中に診察用の記録の種類が用意されています。
- 日本語での実績が読めません。公式サイトには30以上の言語に対応していて日本語も含まれると書かれています。ただ日本のApp Storeに表示されている対応言語は英語だけで、評価も3件しか付いていませんでした。日本語の診察でどこまで実用になるかは、今の時点では確かめられていません。
- 録音してよいかは別問題です。音声認識は端末の中で動いていて、音声そのものは端末から出ない設計になっています。文字起こしされたテキストは暗号化して送られ、AIの学習には使わないと明記されていて、処理を全部端末内で完結させる設定も用意されています。ただしこれは技術的な安全性の話です。診察室で録音してよいかどうかは医療機関の方針次第なので、私なら使う前に受付で聞きます。
料金は、無料のまま月5時間まで使えます。
それを超える場合、日本のApp Storeでは月額1,000円からのアプリ内課金と、5万円の買い切りが並んでいました。
次の診察に持っていくなら、質問メモから始めます
このアプリで好ましいと思ったのは、できないことを作った側が先に書いている点でした。
診断はしない。
治療を勧めない。
症状を解釈しない。
検査結果を評価しない。
緊急時の対応はしない。
診療録にはならない。
アメリカ食品医薬品局(FDA)が承認した医療機器でもない。
公式には「メモと理解のための道具であり、医学的な助言や診断や治療を提供するものではなく、専門的な医学的判断の代わりにもならない」と書かれています。
私は医者ではないので、この線が先に引かれているほうが使いやすいと思っています。
とはいえ、いきなり診察室にアプリを持ち込む必要はないはずです。
前回の通院で家に帰ってから思い出せなかったことを、1つでいいので書き出してみる。
それが、自分は何を補ってほしいのかの手がかりになります。
録音していいかどうかは、次に行ったときに受付で聞いておけば済みます。
診察の10分を長くすることは私にはできません。
その10分で受け取ったものを、家に帰ってからも読める形にしておく。
準備と記録は自分の側の仕事なので、そこは道具に手伝ってもらうことにしています。



コメント
ログイン か 会員登録 するとコメントできます