中国のAIドラマは、実写なら60万元超(約1400万円)かかっていた1本を、3万〜5万元(約70万〜120万円)で作っているとFNNプライムオンライン(9月24日)が伝えています。総額の差に目が行きますが、現場的には1400万円のうちどの行が消えて、どの行が残ったのかのほうが大事な話なんですよ。このニュース、自分の現場の見積書に置き換えて読みましたか?
43万作品の9割がAI、中国AIドラマの数字の中身
同じ報道では、2026年1〜8月に中国で公開されたショートドラマが43万作品で、前年1年間の13倍。そのうち9割以上がAI作品だとしています。四半期で切ると比率はさらに高く、人民網は2026年第1四半期の約12.8万作品のうち、AI短劇が95%を超えたと報じています。
ただ、この数字は当たった数ではありません。抖音で2026年上半期に新しく出たAI短劇22.19万作品のうち、再生1億回を超えたのは1055作品で、割合にすると0.5%を切るという集計も出ています。
本数が増えたのは、1本が安くなって打席を増やせるようになったからなんですよ。1本1400万円なら企画会議で何度も絞りますが、100万円なら10本出して1本当たればいい、という張り方ができる。単価が10分の1以下になったとき、同じ予算で何本出すかを先に決めておかないと、量産の側に引っ張られます。
1400万円のショートドラマ制作費、内訳から逆算する
1400万円の内訳の割合は公表されていないので、ここは見積書の「行」で考えます。実写のショートドラマで積まれるのは、おおむね次のような行です。
- ロケ地とスタジオの使用料
- カメラ、照明、録音の機材レンタル
- 美術、衣装、メイク
- スタッフと俳優の人件費を撮影日数分
- 移動、宿泊、ケータリング
- 編集、音、仕上げ
AI制作に切り替わると、上の5行がほぼまとめて消えます。どれも「人と機材を、ある場所に、ある日数だけ集める」ための費用だからです。報道では、実写で70〜80人いたスタッフが、AI制作では数人になったとされています。人件費の行が一番重いというのが現場の感覚ですが、何割なのかを示すデータはないので、ここで数字は出しません。
残るのは、脚本、AIを操作する数人の人件費、編集と音、ツールの利用料。それに、あとで触れる表示対応の手間です。つまり、撮影日数×人数という掛け算そのものが見積書から外れたって話なんですよ。
Seedance 2.0が引き受ける工程
この掛け算を外しているのが、バイトダンスが2026年2月に発表した動画生成AI「Seedance 2.0」です。中国では「即夢」、国際版はDreaminaの中で使えます。
報道によると、脚本と登場人物の画像を入れると数分で動画が生成され、カット割りやセリフ、効果音まで提案してくるそうです。1分の映像が2〜3時間で仕上がるとも伝えられています。
現場的に見ると、撮影部、照明部、演出部が朝から詰めていた「どう撮るか」の段取りが、1つのツールの中に畳まれたってことです。画角を決め、光を作り、芝居をつける往復が、入力と生成のやり直しに置き換わっています。
一方で、脚本と「どのカットを採用するか」の判断は人の手に残ります。そこを誰が握るのかを決めないまま量産に入ると、採用の基準がカットごとにぶれていきます。
AI俳優と俳優の日当、1万元が1000元になったのは何の対価か?
俳優の報酬は、1日1万元超(約24万円)だったものが2000〜1000元(約4万7000〜2万3000円)まで落ちたと報じられています。5分の1から10分の1です。
日当って、2つの対価が混ざった値段なんですよ。1つは現場に拘束される日数、もう1つは「その顔、その芝居でしか撮れない」ことへの対価です。自分の見立てでは、AIで人物を作れるようになって後者に代わりが効くようになり、単価を支えていた部分が崩れた。拘束日数の分だけが残ったと考えると、1000元台という水準にも説明がつきます。
日本の出演料の見積もりなら、どちらの対価が大きいでしょうか。代わりの効かない顔で組んでいる枠ほど、この下がり方からは遠いはずです。
揺れているのは俳優だけではありません。報道の中で、ある監督は「手探りです。AIを試しています。本当に置き換えられる日が来たら、自分が何をすればいいか分かりませんから」と話しています。撮影現場を回す段取りそのものが仕事だった人ほど、この言葉は重いはずです。
横店の撮影チーム半減と、日本の縦型ドラマの現場
数字は撮影所にも出ています。浙江省の横店影視城が2026年1〜5月に受け入れた撮影チームは、前年同期から少なくとも半減しました。取材の日に撮影していたのは1組だけだったそうです。撮影所という装置そのものの出番が、減ってきているということです。
日本では、読売テレビグループの『サヨナラ港区』が全編の映像を生成AIで作り、主に2人で2カ月かけて仕上げて、2025年9月に地上波で放送されました。背景だけをAIに任せる形もあります。ごっこ倶楽部とサイバーエージェントの縦型ショートドラマでは、Midjourneyで作った背景をLEDウォールに映して撮り、撮影のコストを50%削減したとしています。
韓国では、ショートドラマ制作のViglooが制作費を9割以上削ったと話しています。SFXは100%、音響効果は約85%をAIで作り、監督1名とクリエイター5〜6名のチームを2つで回す体制です。使っているツールにはSeedanceも入っています。
背景を削る型と、全編を作り替える型は、もう両方が現場で走り出しています。あなたの現場で最初に来るのは、背景ですか、全編ですか? 背景から来るならロケと美術の行が軽くなり、全編なら中国と同じく撮影日数×人数の掛け算ごと外れます。
AI生成コンテンツの表示義務、中国のラベルはAI俳優に付くのか?
中国は2025年9月1日に、AI生成合成コンテンツの標識弁法を施行しました。国家インターネット情報弁公室など4当局が出したもので、AIで生成・合成した文章、画像、音声、動画、バーチャルシーンに、見て分かる「明示的標識」と、メタデータに埋め込む「暗黙的標識」を付けるよう求めています。
動画が対象に入っている以上、AI俳優が演じるドラマも表示の対象に含まれると読むのが自然だと自分は見ています。ただ、画面のどこにどう出せば足りるのかといった細部は、法律の専門家に確かめるべきところです。
日本には、今のところ同じような法律上の表示義務はありません。義務がないぶん、クレジットにどう書くか、視聴者にどう説明するかは、発注の段階で決めておかないと後で揉めます。
次の案件の見積書に、「AIで作る行」を1行だけ立ててみてください。その行に何が入り、代わりにどの行が消えるかを書き出すと、この波が自分の現場のどこから来るのかが見えてきます。



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