VIVANT続編の病院の爆破が、生成AIで作られていたと聞いて驚いた人も多いんじゃないでしょうか。ドラマ制作に生成AIが入る話は「CGが安くなる」の一言でまとめられがちですが、現場的には、どの工程のどの費目が誰の手から離れるのかを見ないと話が始まらないんですよ。国内外の事例を、予算と権利処理の段取りで並べてみます。
VIVANTの爆破シーン、生成AIで作ったのはどこか?
日経の報道では、TBSが7月放送の第2シーズン初回で病院の爆破映像にAIを使い、制作時間を8割短縮したとされています。何と比べての8割なのかは、記事の公開部分からは読み取れません。
中身をいちばん詳しく書いているのは、TBS自身の調査情報デジタルの解説です。使われたのは第11話(2026年7月26日放送)で、開始4分40秒ごろの「半田総合病院」屋上機械室の爆発と、17分15秒ごろ、防衛省近くの地下にある部屋の壁一面のディスプレーに映る「旭川共済病院」ボイラー室の監視カメラ映像。使った場所を放送の秒数まで添えて明かしてくれているので、見返して確かめられるのがありがたいところです。ほかにニュース映像やPC画面の中身にも使われています。
作り方は2段構えです。静止画生成AIのNano Bananaで炎などの静止画を細かく指定して作り、それをGoogleの動画生成AIのVeo 3で動かす。一発で狙った絵に辿り着くわけじゃなく、出力が毎回変わるので、寄るまで生成を繰り返したそうです。
TBSアクトの小嶋一徹さんは、従来のCGなら「1カットで数百万円とか」かかるところが、生成AIだと担当の大村正俊さん一人で「わずか数日で出来てしまいます」と話しています。
爆破の予算、AIで浮くのはどの費目か?
爆破って、実写でやると火薬を使える場所を押さえた時点で予算が一段上がるんですよ。特殊効果の技師さん、消防や自治体との調整、安全要員、保険。しかも本番はほぼ一発勝負なので、撮り直しが効かないことまで込みで見積もります。
CG会社に出せば、今度はカット単価の世界です。炎や煙のシミュレーション、レンダリング、合成、修正の往復が乗るので、1カット数百万円という数字は現場の感覚ともずれていません。
見てほしいのは、VIVANTの2カットの中身です。どちらも爆発するのは設備側で、片方はモニターの中の映像。役者さんの芝居と爆風を1つの画面で合わせるカットとは、求められる整合性の水準が違います。大村さんも「大事なのは、『AIではそこまでは難しい』という限界ラインを見極められることなんです」と言っています。
もう1つ、見積もりの行が変わる話があります。小嶋さんは、実写の背景に描いた背景画を合成するマットペイントについて、素材を撮りに行くなら「カメラマンや照明も入れて行かなければいけなかった」のが、AIなら行かなくてよくなり「そこのスタッフの人件費が削減できてしまいます」と話しています。CG会社の請求書だけじゃなく、撮影部と照明部の拘束日も減るという話です。
TBSイノベーション推進部の宮崎慶太部長は、生成AIで簡単にできるようになれば「もっとお金をかけなきゃいけないんだけど諦めていたところにお金をかけられるようになって、より“質”を上げることにもつながります」と話しています。浮いた予算は消えるんじゃなくて、これまで諦めていたカットに回るって話です。あなたの現場で1カット数百万円かかっているのは、芝居と絡むカットと画面の中の映像、どちらが多いでしょうか?
国内外のドラマと映画、生成AIが入った工程
並べてみると、生成AIが入っているのは爆破、崩落、背景といった「素材」の工程ばかりです。脚本や芝居そのものをAIに渡した例は、ここにはありません。
注意したいのが『TOKYO 巫女忍者』です。30分に約6カ月かけていて、脚本とプロデュースの鈴木努さんは「AIでないと絶対に作れない映像」を目指したと話しています。速さや安さではなく、実写でもCGでも出せなかった絵を取りにいった例です。コスト削減だけで生成AIを語ると、こういう使い方を見落とします。
生成AI映像の権利処理とクレジット表記
文化庁の「AIと著作権に関する考え方について」では、生成と利用の段階は、通常の著作権侵害と同じく類似性と依拠性で判断すると整理されています。AIが出した炎や街並みが既存の作品に似すぎていないか、見る工程が要るということです。
Netflixが制作パートナー向けに出した生成AIのガイダンスは、もっと実務寄りです。生成物は一時的な素材として扱い最終納品物には入れない、出演者の演技を同意なく置き換えない、といった5原則を置き、最終納品物や俳優の肖像が絡む場合は書面での承認を求めています。
クレジットの書き方は、まだ決まった形がありません。『犬と少年』の「背景:AI (+Human)」は1つの答えですが、どの作品もこうするとは限らない。ここはまだ各社手探りの段階なんですよ。Veoの出力には電子透かしのSynthIDが入ると、Google DeepMindが公式に説明しています。
VIVANTの件で面白いのは、TBSがこの確認を段取りに組み込んでいたことです。宮崎部長によると、Google Cloudの規約では、適切なプロンプトを入力していれば仮に訴えられても裁判費用はGoogle側が持つとされていて、そのために「プロンプトのログは必ず残す」というルールを設けたうえで使うと決めたそうです。
現場的には、CG外注費の行が減る代わりに「権利確認」と「ログ管理」の行が新しく立ちます。その確認、いまの見積もりでは誰の工数で見ていますか?
俳優の肖像と声、生成AIが越えない線
アメリカでは俳優の組合SAG-AFTRAが2023年の協定で、俳優のデジタルレプリカを作ったり使ったりするには本人の同意と報酬が要ると定めました。2026年7月からの新協定では、AIの合成パフォーマーを人間の俳優の代わりに使う場合の制限がさらに強まっています。
国内では、日本俳優連合など音声業界の3団体が2024年11月に、吹き替えに生成AI音声を使わないこと、学習や利用には本人の許諾を取ること、AI生成物だと明記することを求めました。2026年7月に法務省が生成AIによるパブリシティ権侵害の解釈指針案を公表した際にも、日俳連は歓迎の声明を出しています。
Amazon Prime Videoが『BANANA FISH』などのアニメに配信した「AI beta」の吹き替えも、批判を受けて2025年12月までに取り下げられました。爆破や背景は置き換わっても、人の顔と声は置き換えの対象にしない。今の線はそこに引かれています。
ドラマ制作の生成AI、次の見積もりで見るところ
生成AIを使うか迷うカットが出てきたら、自分なら次の3点を見ます。
- そのカットは役者さんの芝居と絡むか、設備や背景や画面内の映像で完結するか
- 生成物が既存作品に似ていないか確かめる工数と、プロンプトのログを残す段取りを、見積もりに載せているか
- クレジットと視聴者への表示を、制作側と局側のどちらが決めるのか
手が離れるのは、CG会社に出していたカット単価の一部です。どこまでAIに任せるかの限界ラインを引く判断は、VIVANTでもVFXの担当者が握っていました。次の企画書に爆破や群衆のカットがあったら、まず上の3点を書き出してみてください。どの行が軽くなるか、それで見えてきます。



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