生成AIの主役はGAFAM(Google、Apple、Meta、Amazon、Microsoft)からAGNO(Anthropic、Google、NVIDIA、OpenAI)へ移った。そんな見立てが出てきました。自社の生成AIの使い分けを経営としてどう決めるか、気になった方もいるはずです。
いま自社のAIは、何社のモデルで動いていますか?
答えが1社でも3社でも、AGNOの地図はその判断を助けてくれません。予算や契約の場で問われるのは業界の勝敗ではなく、自社の仕事にどのモデルを当てるかだからです。これは誰がAI産業の稼ぎを握るかを描いた供給側の地図で、使う側には用途と切り替えコストで描く別の地図がいります。
GAFAMからAGNOへ、という括りは何を映しているのか。
出典は、笠原一輝さんのAIにより変化しつつある「IT覇権企業」「GAFAM」から「AGNO」にです。材料になっているのは2人の発言です。NVIDIAのCEO、ジェンスン・フアンさんは7月、日本の顧客やパートナー向けのレセプションで「AIは全てを変えている。すでにソフトウェア産業の形を変えており、今後はそれが他の産業にも波及していく」と話しました。笠原さんはこれを受けて、ソフトウェア産業ではある種の「リセット」が起きていると見ています。
もう1人はGoogle Cloud日本代表の三上智子さんで、4月に米国で開かれた年次イベントで「すでにわれわれの競合はAmazonやMicrosoftではなくなっており、AnthropicやOpenAIであることが増えている」と述べています。GAFAMの一角が、同じGAFAMでなくモデルを作る会社を競合と見るようになった。この変化を一語にまとめたのがAGNOです。
記事の見立てでは、Anthropic、Google、OpenAIの3社がモデル開発を競うほど、その学習を支えるGPUを売るNVIDIAにお金が落ちます。どこに投資マネーが流れ、誰が稼ぐのか。投資家の目線で見れば、筋の通った地図です。
ただ、この地図が答えている問いは「誰が勝つか」です。使う側が毎月向き合う「どの仕事にどのモデルを当て、替えたら何が痛むか」には答えていません。地図として正確でも、問いが違えば道案内には使えません。
AGNOのモデル層と計算基盤層は、同じ棚に並ばない
AGNOの4社は、同じ種類の会社ではありません。Anthropic、OpenAI、Googleは企業が契約して使うモデルを出す会社で、NVIDIAはそのモデルを学習させ、動かすためのGPUを売る会社です。
物流に置き換えると分かりやすくなります。荷主が選ぶのは運送会社で、トラックのメーカーを直接選ぶことはまずありません。NVIDIAはこのトラックの側にいて、使う側が直接触ることはほぼないのに、多くのモデルの裏にいます。
正直に言えば、この線はきれいには切れません。Googleはモデルを出す一方で、自社製のAI用チップも持っています。運送会社が自前でトラックも作っている状態です。
それでも、使う側が比べて選び、契約を結ぶ単位はモデルです。経営判断で見る棚はモデル層で、計算基盤は「モデルの裏にある土台」として脇に置いて構いません。
頭文字の括りは、産業の重心が動くたびに組み替わります。以前にもMicrosoft、Amazon、Tesla、Alphabet、NVIDIA、Appleを並べたMATANAという括りが提案されたことがあります。並びが変わるたびに社内のAI方針を書き換えていたら、判断の軸がいつまでも定まりません。
では、動かない軸は何で引けばいいのか。次の使い分けで具体的に見ます。
生成AIの使い分け、線はどこで引くのか?
使う側の線引きは、覇権の順位でなく仕事の種類で決まります。たとえば、文章とアプリ作成はClaude、画像や音声はOpenAI系やGoogle系に振る形が考えられます。どの会社が業界で勝っているかと、この社内の割り振りは別の話です。
自社の仕事を3つに分けたら、それぞれに当てているモデルは何でしょうか?
全部同じモデルでも、それ自体は問題ではありません。困るのは、なぜそのモデルなのかを誰も説明できない状態です。たとえば、契約更新のときに「なぜこのモデルなのか」と聞かれて、答えに詰まる場面です。出来栄えで選んだのか、既存の契約があったからか、社内データの置き場所に合わせたのか。理由が言えれば、状況が変わったときに見直す基準にもなります。
そしてこの割り振りは、固定できません。各社のモデルは数か月単位で更新され、用途によっては得意不得意の順位も入れ替わります。線は用途ごとに引き、担当するモデルは入れ替わる前提で置いておく。地図を描くなら、この書き方が現実的です。
Microsoftも1社に固定しない、マルチモデルという選択
元記事は、1社への固定から複数モデルへ動いた代表例として、Microsoftを挙げています。MicrosoftはCopilotの中心に、初期に出資したOpenAIのGPTを据えてきました。2025年9月からはAnthropicのClaudeも選べるようにし、対応する機能では、利用者がOpenAIとAnthropicのどちらのモデルで動かすかを選べる形になっています。
元記事によると、GeminiやClaudeの評価が高まるなかで、OpenAIのGPTに寄せ続けることがMicrosoft自身の競争力を削ぐ状況になっていきました。これはMicrosoftに限らず、多くのソフトウェアベンダーが「マルチAIモデル」へ移りつつあるという見方です。
出資という深い関係がある側ですら、1社に固定し続けなかったわけです。1社に固定し続ける理由は、使う側にとってそれよりずっと見つけにくいはずです。
ベンダーロックインを避けるなら、賭ける先は手元の資産
「1社に賭けない」だけでは、ロックインは解けません。3社に分散しても、それぞれの管理画面やチャット履歴の中に手順が埋まっていれば、縛られる相手が3社に増えるだけです。
来月いまのモデルを別のものに差し替えたら、何が消えますか?
消えるものの量が、そのまま切り替えコストです。飲食店に例えると、腕のいい職人が辞めても、レシピ帳と仕入れ先の台帳が店に残っていれば、次の職人で店は回ります。レシピ帳を職人の頭の中にしか置いていない店は、職人が替わるたびに味を作り直すことになります。
AIでいうレシピ帳は、業務フローそのもの、書き溜めた指示文、作業手順をAIに読ませる形にまとめたSkill、社内のデータ、そしてAIの振る舞いを決める設定ファイルです。これらを社内の置き場に持っておけば、モデルは差し替えの利く部品になります。賭ける先はモデルでなく、この手元に残る側です。
生成AIの使い分けを経営で見る、用途と切り替えコストの表
使う側の地図を、1枚の表にするとこうなります。中身は例として埋めたもので、2列目のモデルは自社の実態に書き換えてください。
読み方は単純です。「切り替えで痛むもの」が重いのに、右端の資産が社内にない行は、ロックインが一番深い場所です。新しいモデルを試すより先に、その行の資産を手元に取り出す作業から手を付けます。
逆に、痛むものが軽く、資産もそろっている行は、新しいモデルが出るたびに気軽に試して構いません。どこで冒険し、どこで守るか。その線が、この1枚で見えてきます。
まずは自社の用途を5行だけ挙げて、この表の自社版を1枚書いてみてください。右端が埋まらなければ、空白のままで十分です。その空白の行が、次に手を付ける場所を教えてくれます。AGNOの次にどんな頭文字が出てきても、使う側の判断はこの表を更新するだけで済みます。



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