電卓も検索も使わせない条件で、AIが国際的なSTEMの大会5つで金メダル相当の成績を取りました。
その中でも、物理の2競技については満点でした。
計算資源を積み増して勝ったのではなく、解かせ方を変えて勝った、という話なので、大きな研究所の出来事に見えて中小企業のAI予算にそのまま刺さります。
道具を1つも使わせずに金メダル水準を取った
海外で報じられた中身は、これだけでした。
Metaのモデルが5つの国際的なSTEMオリンピアドで金メダル相当の成績を出し、うち物理の2競技では満点。
条件は「ツールなしのマルチエージェント推論」。
道具なし、というのがどれくらい厳しい条件かというと、電卓もコードの実行環境もなく、検索も参考資料の参照もできない状態です。
使えるのはモデルが持っている推論だけ。
その代わりに、解く役を複数立てて並行で考えさせる、という組み方をしています。
普通、AIの成績を上げようと思ったら手は決まっているんですよ。
もっと大きいモデルにするか、もっと道具を持たせるか。
今回はその両方をやらずに、道具をゼロにしたまま上げている。
なお、5つの大会が具体的にどれなのかは公表されていません。
そこは最後にまとめて触れます。
スケールで殴るか 編成で勝つか
AIの出力を上げる手は、だいたい2つに分かれます。
1: スケール。より大きいモデルに変える、計算資源を増やす、道具を足す、扱える文脈を長くする。
2: 編成。モデルはそのままで、解く役を複数立てて並行させ、出てきた答えを突き合わせる。
人を増やすか、今いる人の組み方を変えるか、という話と構図は同じです。
どちらが安上がりなのかは、今回のケースだと公表された数字がないので断定できません。
並列で推論を回せば、その分だけ推論の回数は増えますし。
はっきり違うのは「何を増やしているか」のほうです。
スケールは持ち物を増やす。
編成は設計を増やす。
前者は予算が通れば勝手に進みますが、後者は誰かが手を動かさないと1ミリも進まない。
で、たいていの会社で手つかずになっているのは後者なんですよ。
同じ研究所が正反対の2つを出した
8月5日、MetaはMuse Codeというターミナル上で動くコーディングエージェントを公開しています。
GPUカーネルの最適化を、1,000回を超えるツール呼び出しで、最大24時間かけて回し続ける。
公式にそう書かれている、道具を使い倒す方向の製品です。
その2日後に報じられたのが、道具ゼロで金メダル水準、という話でした。
2日違いで、道具の量が真逆に振れている。
ここから読めるのは、道具は多いほど強い、という単純な話ではないということです。
決めているのは、答えがどこにあるか。
リポジトリの改修なら、正解は手元のコードとテストの結果の中にあります。
取りに行かないと確かめようがないので、実行する道具が要る。
競技の物理や数学は逆で、答えは問題文から導けるものです。
取りに行く先がないので、道具を足したところで増えるのは手数とコストだけになる。
自社に置き換えるとこうなります。
AIに任せたい仕事の答えが、社内のデータや実行結果の中にあるなら、道具の整備が投資対象。
答えが渡した情報から導けるものなら、道具より解かせ方に投資したほうが効きます。
Muse Spark 1.2で実際に変わったところ
Muse Spark 1.2は8月5日から、Muse CodeとMeta Model APIで使えるようになっています。
Muse Codeのほうは、大きなリポジトリ全体を対象に、変更の計画から実装、結果の検証までを引き受けるエージェントとして説明されています。
バックグラウンドで動き続けるエージェント、リポジトリ規模での実行、検証の内蔵。
柱はこのあたりです。
ベンチマークとして挙がっているのはTerminal-Bench 2.1、DeepSWE 1.1、それとMeta社内のコーディングベンチ。
ただ、経営目線で引っかかるのは性能の数字より、さっきの「最大24時間」のほうだと思ってて。
AIに投げる仕事の単位が、1回のやりとりから、走らせっぱなしのジョブに変わっているんですよ。
これは監督のしかたと費用の見積もり方が変わるという話です。
社内で使うなら、走り出したものを途中で止めるかどうかを誰が判断するのか、上限をどこに置くのか、先に決めておかないといけない。
24時間動き続けるものを野放しにすると、翌朝の請求で驚きます。
計算資源を増やす前に 配分を疑う
持ち帰るのは1つでいいと思っています。
出力を上げたくなったとき、最初に触るのは「増やす」ではなく「並べ方」。
多くの会社のAIの使い方は、いまだに1回投げて1回答えをもらう構造のままです。
精度が足りないとなったときの次の一手も、たいてい上位プランへの変更か、もっと高いモデルへの乗り換えになる。
これは稟議が通しやすいので選ばれやすいんですよ。
金額と効果を並べて書けるので。
ただ、同じ予算でこういう手も打てます。
- 同じ問いを、前提を変えて3通り解かせて、食い違ったところだけ人が見る
- 下書きを作る役と、粗を探す役を別々に立てる
- 一次処理は安いモデルに任せて、高いモデルは最後の判断だけに使う
どれもモデルを変えていません。
変えているのは並べ方だけです。
確認のしかたは1つで、直近1ヶ月でAIに投げた仕事のうち、1回投げて1回答えで終わっているものが何割あるか数えてみる。
その割合が高いほど、まだ買い物をしなくていい余地が残っている、ということになります。
断定を待つ理由
この件、投資判断を書き換える材料としてはまだ弱いです。
確定していないことを並べます。
5つの大会がどれなのかは公表されていません。
満点だった物理2競技がどの大会かも同じです。
コストがどれくらい安く済んだのかを示す数字も出ていない。
そもそもMeta自身の8月5日の発表に、オリンピアドの話は1行も入っていません。
なので、その成績を出したのがMuse Spark 1.2なのか別のモデルなのかも、公式には確認できない状態です。
いま確かなのは「道具なしのマルチエージェント推論で金メダル水準が出た」という一行だけで、その先は続報待ちになります。
だから予算の話は、まだ動かさなくていいと思ってて。
動かす価値があるのは、さっきの配分の確認のほうです。
こちらはどのモデルの話だったとしても結論が変わらないので、続報を待つ理由がありません。
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