約7,500円で作った架空の統計5万件のサイトが、公開から7か月でChatGPT経由のセッションを1万件以上集めました。AI検索の分析ツールを提供するPeec AIのGEO Researcher、Metehan Yesilyurtさんが報告した実験です。数字はGPT-4.1が書き、本人は1件も確かめていません。
自社の数字をAIに引用してほしい側にとっても、AIが示した数字を資料に使う側にとっても、他人事としては読めない結果ではないでしょうか。報告の中身を一次情報で確かめ、両方の立場から点検の手順をまとめます。
架空の統計5万件は、約7,500円で作られた
報告は2026年10月にPeecのブログで公開され、20日にはHacker Newsで300ポイントを超える反響を集めました。サイトを作ったのは同じ年の3月で、本人がPeecに入社した6月より前に始めた実験です。
扱ったのはSEO、コンテンツマーケティング、SNS、EC、Web技術の5分野で、200か国ぶんの統計を並べました。費用は最初の構築に約4,500円(30ドル)、あとから足したリスト記事1万5,000本に約3,000円(20ドル)です。生成にはGPT-4.1を使い、指示は国と分野の一覧に2文を添えた程度だったといいます。
報告の書き出しは「どれも偽物だった」という一文です。本人は偽のコンテンツの手引きとしてではなく、研究として共有すると断っており、作り方の細部はここでも追いません。
ChatGPT経由で1万セッション、リンク元は330ドメイン超
3月以降、GA4ではChatGPTからのセッションだけで1万件を超えました。報告時点の直近30日には、ボットからのリクエストが60万件以上あり、そのうち約7万2,000件がChatGPT-Userです。ChatGPTが質問に答えている最中にページを開きにいくエージェントで、自動で巡回するクローラーとは違い、利用者の質問をきっかけに動きます。
サイトにリンクを張ったドメインも330を超え、Shopify、DHL、Bluehostの名前が挙がっています。数字はさらに、学術論文、カタール最大の金融グループの投資リサーチ、インドの経済媒体、カナダのインフルエンサー団体の調査レポートで使われたそうです。いずれも本人の報告で、リンクや引用がどんな経緯で生まれたかは書かれていません。
Googleは手放し、ChatGPTは開き続けた統計ページ
Googleの検索には、一度は載っています。インデックス登録を促すツールを使い、公開から1週間でサイトのほぼ全体がインデックスされ、検索結果にも出始めました。ところが直後にGoogleのアップデートが2回あり、表示は崩れます。今もインデックスに残るページの表示回数は、5回から20回のあいだを行き来しているそうです。
ChatGPTとの差がどこから来たのか、報告はAI側の探し方から説明しています。
AI検索が統計ページを探しにいく理由
調べものが必要な依頼を受けると、モデルは依頼をいくつかの検索語に分け、「statistics」「data」「report」や今年の年号を付け足して探します。リモートワークについてのブログ記事を頼めば、「remote work statistics 2026」を検索する、という具合です。1つの依頼を複数の検索に広げるこの動きを、ファンアウトと呼びます。
統計ページはタイトルにも見出しにもURLにも年号が入っているため、モデルには新しい情報に見えます。文章を組み立てるうえで、具体的な数字は根拠の穴を埋めてくれる素材です。報告は、この流れのどこにも事実確認は入らないと書いています。
本人は、結果が公になったことでモデルの側がこの穴をふさぐかもしれない、とも添えています。今は通用しても、先は分からないという立場です。
最近AIに下書きさせた資料に、出どころをまだ開いていない数字は入っていませんか?
引用された統計サイトの注意書きに、架空とは書かれていない
10月21日に、ページ取得ツールでstateglobe.comのトップページだけを確かめました。アドレスはdata.stateglobe.comへ転送され、トップには「StateGlobe — 1M+ Digital Marketing Statistics (2026)」と掲げられています。報告では5万件だった統計が、今の名乗りでは100万件以上です。どちらも自己申告で、どちらが正しいのかは分かりません。
ページ下部の注意書きは、次の1文でした。
All statistics are estimates and projections based on industry trend analysis and historical data.
訳すと「すべての統計は、業界の傾向分析と過去のデータにもとづく推計・予測です」となります。報告は「サイトには今は注意書きがある」と書いていますが、その文言に「架空」や「AIで生成」という言葉は見当たりません。いつ足されたのかも、報告からは読み取れません。
報告で区別されていない点が、もう1つあります。ChatGPTからセッションが来ている以上、参照先のリンクとして示されたことは分かります。ただ、回答の本文に数字を事実として書いたのかどうかは示されていません。OpenAI側の反応も、確認できた範囲では見つかりませんでした。
AIの回答から数字を拾う人が、元のサイトの最下部にある注意書きまで読むでしょうか。注意書きが付いていても、それが数字と一緒に運ばれるとは限らない、と私は考えています。
自社の数字が引用されるなら、出典と年を隣に
Peecは報告の後半で、正当な統計ページを作るときの注意を7つ挙げています。架空の統計が届いた条件の裏返しでもあり、広報やオウンドメディアの側ですぐ見直せるのは次のあたりだと考えています。
1. 数字の隣に出典と年、1文に1つの主張
「国内の○○市場は前年比12%増」と書くなら、同じ文の中に調査した組織と年を置きます。出典が段落の終わりや脚注に離れていると、数字だけが切り取られて引かれたとき、辿る道が残りません。
2. 統計の更新日を出すなら、実際に更新する
年号は、AIに新しさを伝える目印になります。だからこそ、「2026年版」と掲げたページの中身が去年のままだと、古い数字が新しい顔をして引用され続けます。更新日の表示は、数字の差し替えと同じタイミングで動かす運用にしておきたいところです。
3. 自社にしかない独自データを1つ置く
業界統計の寄せ集めは、ほかのサイトと同じ数字の並べ直しになりがちです。自社の受注データや顧客アンケートの結果を1つでも、調べ方と回答数を添えて載せておけば、引用されたときの出どころがはっきりします。
残りの項目は、見出しを検索されそうな言い回しに合わせること、JavaScriptに頼らないHTMLで取得しやすくすること、デザインを簡素に保つことで、サイト制作の担当と相談する内容です。
ただ、年号入りのタイトルも、1文に1つの主張という書き方も、架空の統計サイトにそろっていた形です。形が整っていれば中身が偽でも引かれる以上、中身の出どころを示す責任は、書いた側に残ります。
自社サイトのなかで、数字の隣に出典と年が並んでいるページはいくつあるでしょうか?
その統計、AI検索の答えから一次情報まで辿れますか?
カタール最大の金融グループの投資リサーチにまで入りこんだ、という一節を読んで、資料に数字を引くときの手間は省けないと感じました。その数字がどこから来たのか、一度だけでも辿っておきたいんです。資料に載せる前の確認は、次の順番で足ります。
- AIの回答が示したリンク先を開き、そのページが挙げている出典まで進む。出典が書かれていなければ、そこで使うのをやめる
- 出典にたどり着いたら、調べた組織、方法、回答数や母数、実施した年がそろっているかを見る
- 同じ数字を、別の組織の調査や公的な統計で確かめられるかを探す
stateglobe.comの場合、トップページの注意書きが説明しているのは「業界の傾向分析と過去のデータにもとづく推計・予測」という一言だけです。調べた組織や母数には触れていないので、2の段階で手が止まるはずです。
リンク元の多さも、信用の代わりにはなりません。330を超えるドメインからリンクされ、有名企業の名前が並んでいても、それは誰も中身を確かめていない数字でした。本人はPeecに入ったあと、全件を確かめて出典を付けた版でも同じ試験をしています。すると、AIで記事を書いているとみられるサイトからのリンクがすぐに付き始めたそうです。
AIが書いた記事がAIの拾った数字を引き、その記事がまた別のAIに拾われる。そんな輪が、思っているより速く回っているのではないか、と私は受け止めました。
報告者自身も「偽のコンテンツを公開してはいけないのは言うまでもない」と書き、出典の確認を書き手や調べる人の仕事の一部にすべきだと述べています。自社の数字の隣に出典と年を置くことと、他社の数字を辿ることは、同じ1行でつながっています。まずは自社サイトでいちばん読まれている統計ページを1つ開き、数字の隣に出典と年があるかを確かめてみてください。

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