2026年7月から10月に、AIで登山計画を立てた人が救助された件が海外で3件報じられました。外れていたのは、タトラ山脈では近道の難しさ、シャスタ山では食料と水の量、カナダのクラウンマウンテンでは道が岩登りに変わる地点です。どれも出発前に地形図や現地の人の話と照らし合わせれば、気づく手がかりがありました。
山の計画をAIに相談したことはありますか? 3件を見比べると、AIを使ったかどうかより、その答えを何かと突き合わせてから出たかどうかで差がついたように私には見えます。
AIの登山計画で救助された3件、日付と答えの中身
3件とも、AIが実際に返した文章は公開されていません。ここで「答え」と書くのは、救助した側や報道が伝えた範囲のものです。
1. タトラ山脈で救助された2人、ChatGPTが示したとされる近道
7月4日、リトアニアから来た2人が、ポーランド側の「五つの池の谷」へ向かう途中で動けなくなり、山岳救助隊のTOPRに助けを求めました。AIが近道として示したというシフィニツカ・ワフカ(Świnicka Ławka)を通る道で、岩登りの技術が要る地形に入り、進むことも戻ることもできなくなったと報じられています。2人はTOPRのヘリコプターで運ばれました。
使われたAIは、多くの報道でChatGPTとされています。ただ、救助にあたったTOPRの説明は「AIの提案」とだけで、製品の名前には触れていません。
地形図の等高線で読めた近道の難しさ
初めての山で、少しでも早く着く道を探したくなったことはありませんか? 距離の短い道は、たいてい高さを一気に稼いでいます。地形図で等高線がぎゅっと詰まり、崖の記号が並ぶ所を横切っている近道なら、歩く道ではなく登る道だと読めます。
もう1つの手がかりは、その道が登山地図に一般の登山道として描かれているかどうかです。描かれていなければ、行き先の山小屋に「この道を初めての2人で歩けますか」と尋ねておくと安心です。AIは近道を探すのが得意でも、その道を自分の足で歩いたことはありません。
2. シャスタ山の3人、Geminiが勧めた食料と水
カリフォルニア州ローズビルの3人は、8月29日に標高約2,560mでキャンプし、翌30日の午前3時に日帰りの荷物で山頂へ向かいました。保安官事務所によると、3人はルートや持ち物の情報をGeminiに大きく頼っていて、勧められた食料と水は必要な量よりかなり少なかったそうです。登りは8時間の計画でしたが、山頂に着いたのは午後7時。勧められている正午の引き返し時刻を、7時間過ぎていました。
暗い中を下るうちに道を外れてマッド・クリーク・キャニオンに迷い込み、1人がひざを痛めて、谷で一夜を明かしました。翌31日の朝、森林局のクライミングレンジャーが3人を見つけています。
正午の引き返し時刻とレンジャーステーション
外れていたのは、量より先に時間の見立てだったと私は考えています。8時間で登れるという前提が崩れれば、水も食料も足りなくなるのは当然です。保安官事務所は、出発前に森林局マウント・シャスタのレンジャーステーションへ電話して最新の情報を確かめること、計画をAIだけに頼らないことを呼びかけました。保安官のジェレマイア・ラルーさんは「AIは良い道具になりうるが、専門家として使うべきではない。実際の人に話を聞いて」と話しています。
あなたの計画にある所要時間は、何をもとにした数字でしょうか? 日本の山なら、登山地図や自治体の登山案内に区間ごとの目安の時間が載っています。AIが出した時間をそれと並べてみて短すぎるなら、水と食料の見積もりも疑ってかかるのがよいでしょう。
3. クラウンマウンテンの16歳、AIのせいかは説明が分かれた
10月3日の土曜日、16歳の男子が午前8時ごろ、バンクーバー近郊のグラウス・マウンテンにゴンドラで上がり、隣のクラウンマウンテンを目指しました。報道によると、たどった道はクラウン・パス、クレーター・スラブ、クラウン・クーロワールを経て、最後は岩登りのルート「ウィドウメーカー・アレート」の壁の下で動けなくなりました。15時半ごろに救助隊のノースショア・レスキューへ連絡が入り、18時半前に救助を終えています。
多くの報道は、AIのClaudeにルートを作らせたと伝えました。一方で本人はカナダの放送局CBCの取材に、道はAllTrailsとGoogle マップで調べ、Claudeは地形の一部を確かめたほかは主に持ち物を考えるのに使った、AIにウィドウメーカーへ行くよう仕向けられたわけではない、と話しています。AIのせいなのか、本人の使い方なのかは、今出ている情報では決められません。
歩く道が登る道に変わる地点
はっきりしているのは、歩く道が途中から登る道に変わったことです。ノースショア・レスキューのポール・マーキーさんは、少年はヘッドランプや予備の電池と食料まで持ち、ハイキングの備えは十分だったが、岩登りの備えはなかったと話しています。そのうえで「AIをルート計画の道具としてうのみにしないでほしい。良い教育や訓練、経験、現場での判断の代わりにはならない」と呼びかけました。
道の性質が変わる地点は、地形図では等高線が急に詰まる所に、ガイドブックではコース説明の「岩場」「登攀」といった言葉に現れます。AIでもアプリでも、決めた道筋を地元の山岳会や救助隊の案内と見比べておけば、引き返す地点を先に決めやすくなると思います。
同じ質問を今のAIにしたらどう答えるか?
2026年10月21日、3件と同じ形の質問をClaudeに1回ずつ聞きました。Web検索は使わせていません。事例で使われたAIや、当時の会話を再現したものではありません。
タトラ型の「なるべく早く着ける近道は?」には、冒頭で「正規の登山道としての近道はほぼない」「地図上の近道や踏み跡をたどるのはやめて」と返し、2日に分ける案を出しました。シャスタ型では、1人あたり水4〜5リットルと答えたうえで「8時間の往復はまず無理」と書き、経験者でも12〜16時間かかると続けています。クラウン型でも、初めてひとりで行くのは勧めない、家族に計画を伝えておく、という注意がつきました。
少なくともこの聞き方では、3つとも計画の無理を先に言っています。ただ、慎重な答えの中にも、水の量やコースタイム、地名がいくつも並びます。それが正しいかは、私は現地の情報で確かめていません。クラウン型で示された道筋も、報道された件とは別の道でした。答えが慎重だからといって、中身まで正しいとは限りません。
AIの登山計画を出発前に照らし合わせる相手
3件の外れ方は、近道の難しさ、時間と量、道の性質が変わる地点と、それぞれ違いました。照らし合わせる相手も、外れ方に応じて変わります。
- 地形図: 等高線の詰まり方と崖の記号で、その近道が歩く道か登る道かを見る
- 登山地図や自治体の案内にある目安の時間: AIが出した時間と並べ、短すぎないかを見る
- 山小屋や管理する役所: 道の今の状態と、引き返す時刻の目安を聞く
- 登山届: 行き先と帰る時刻を、家族と提出先に残す
日本の山なら、等高線は国土地理院の地理院地図で確かめられます。登山届は、オンラインの登山届サービスのコンパスなどから出せます。山域によって受け付ける窓口が違うので、行き先の県警や自治体の案内にも目を通しておきましょう。
AIに聞くときも、照らし合わせやすい聞き方があります。「この道は一般の登山道ですか、岩登りの技術が要りますか」「この時間は何をもとにした目安ですか」「出発前にどこで確かめればいいですか」と尋ねると、答えの中に確認先が出てきます。そこに実際に当たるところまでが計画だと思います。
次に計画している山では、AIの答えと見比べる相手が決まっていますか?
引き返す時刻は、AIに聞く前に決めておく
救助は、どの件も間に合いました。ただ、地形図や山小屋と照らし合わせても、山の安全が約束されるわけではありません。それでも、引き返す時刻と地点を先に決めておけば、外れた答えに山の上で気づいたときに、戻る理由が手元に残ります。
惜しかったのは、AIの答えそのものより、照らし合わせる相手を持たずに出たことだったのでしょう。次の山行の前に、AIが示した道を地形図の上で指でなぞってみてください。等高線が詰まる所があれば、そこが山小屋に尋ねておく場所です。




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