7月3日に外へ伝わった社内メモと、7月29日の決算発表。同じ会社が同じプロダクトを語っているのに、片方は「存在する権利を勝ち取れ」で、もう片方は「有料シート3,000万突破」なんですよ。この26日間のギャップに、AIプロダクトを売る側が今ぶつかっている壁がそのまま出てます。
26日間で語り口が変わった Copilotの2つの数字
決算の数字自体は文句なしです。四半期売上が約13.5兆円、Azureは前年同期比43%成長で、年間のAzure売上が初めて15兆円を超えました。Microsoft 365 Copilotの有料シートは3,000万を突破。前四半期が2,000万なので、3ヶ月で50%増です。
ただ、分母を置くと景色が変わります。MicrosoftのコマーシャルM365は約4億5,000万シート。3,000万はそのうち6.6%です。
そして決算資料には出てこない数字がもう1つあります。7月3日に報じられた社内メモの時点で、有料転換は4.5%未満とされていました。さらに、払っている側でも週に1回以上Copilotを開く人は20〜30%程度と見られている。この利用率を今の3,000万シートに当てはめると、週次で実際に触られているのは全体の1〜2%という計算になります。
シート数は3ヶ月で50%伸びました。でも「買った人が使い続けているか」を示す数字は、この決算では表に出てきていません。経営会議で追うべきなのは、たぶん後者のほうなんですよね。
4つのCopilotが1つのスーパーアプリになる
Satya Nadellaさんの発言はこうです。
Copilot is evolving rapidly from chat to Cowork to Autopilots. This quarter, we are bringing these Copilot experiences together, including code, in one super app.
チャットからCoworkへ、そしてAutopilotsへ。この四半期に、コードも含めて1つのスーパーアプリにまとめる、と。
今バラバラに動いているのは、コンシューマー向けのCopilotチャット、法人向けのMicrosoft 365 Copilot、6月に一般提供が始まったCopilot Cowork、そして開発者向けのGitHub Copilot。ここに、メールやカレンダーを裏で見張って自律的に動くAutopilotsが乗ります。
Coworkは、Outlook・Teams・Word・Excel・PowerPoint・SharePointをまたいで複数ステップの仕事を任せられるエージェントで、課金は使った分だけのクレジット制。モデルも自社製一本に絞らず、複数を載せる方針が明言されました。
つまり統合の中身は「4つの機能を足す」ではないんですよ。4つに割れていた予算と人と課金導線を、1本に寄せる話です。
「存在する権利を勝ち取れ」Copilot部門11,000人に届いた1,200語のメモ
書いたのはJacob Andreouさん。33歳で、今年3月にCopilot担当のEVPに就任して、11,000人を見ています。Snapで製品責任者をやっていた人で、Microsoftに来て1年ほどでNadellaさんの直下に付きました。このメモが流れたのは、スーパーアプリ発表の26日前です。
キーになる一文が「earn the right to exist」、存在する権利を勝ち取れ、でした。賢さのための賢さを追うのではなく、実際の仕事に効くこと、成果に最適化すること。そう書かれていたと報じられています。
社内向けの言葉としてはかなり強い。エンタープライズソフトで世界最大の配布力を持っている会社が、その配布力を課金にも利用にも変換できていないと、内側で認めた文章なので。
機能を削って有料階層を足す Microsoftが選んだ賭け
言葉だけで終わっていません。最初に切られたのはCopilot PodcastsとCopilot Labs。どちらも使われていないという理由です。Podcastsは8月18日で終了で、しかも生成済みのコンテンツを書き出す手段は用意されていません。
一方で価格は上げています。Microsoft 365 Business Standardは1ユーザー月あたり約1,900円から約2,100円へ。Copilotのアドオンは大企業向けが約4,500円、300シート未満だと販促価格が切れて約3,200円。組み合わせると1人あたり月5,000円を超えます。そこにCoworkの従量課金と、価格未公表のAutopilots階層が乗ってくる。
利用率が上がる前に単価を上げる。普通の会社がこれをやると解約が並びます。Microsoftができるのは、M365ごと解約されない位置にいるからで、ここは切り分けが要るところです。
で、ここからが自社の話なんですよ。
Copilotのギャップは自社のプロダクトにもある
Microsoftの話として読むと他人事なんですが、数字を自社に置き換えると急に痛いです。確認する項目はこのあたり。
- 成果指標が「導入社数」「発行アカウント数」で止まっていないか
- 契約シートあたりの週次利用率を、その場で口頭で言えるか
- 直近12ヶ月で止めた機能があるか。ゼロなら足し算しかしていない
- 値上げの根拠が「機能を足したから」だけになっていないか
- 各機能について「なぜ存在するか」を1文で説明できるか
特に「止めた機能があるか」が効きます。足すのは合意が取りやすいけど、止めるのは誰かの担当領域を消す判断なので、経営が決めない限り永久に先送りされる。Copilotで最初に動いたのが機能の削除だったのは、そういうことだと思ってて。
僕がこの決算コールから持ち帰る3つの判断軸
1: 配布数を成果指標から外す。4億5,000万シートに配れる会社でも、週次で使われているのは1〜2%です。配れる数と使われる数は別の指標で、売上の質に効くのは後者だけ。
2: 統合は「足す」より先に「やめる」から入る。スーパーアプリ化とPodcasts・Labsの終了はセットの判断で、削らない統合はただの肥大化です。
3: 値上げはバンドル力の関数として見る。Microsoftは既存契約に紐づいているから、利用率が低いまま単価を上げられる。自社の解約コストが低いなら、順番は単価より週次利用率が先です。
で、意思決定は何かというと、次の経営会議で見る数字を1本だけ入れ替えることだと思ってます。導入社数の隣に、契約あたりの週次利用率を置く。それだけで、議論に上がってくる打ち手が変わりますよ。

💬 コメント
ログイン か 会員登録 するとコメントできます