経営の意思決定にAIを使い倒している、ひでです。
「AIで開発が速くなった」。
この一年、何度も聞いた言葉です。
ところが最近、その次に来る請求書の話が経営者の間で静かに増えています。
速く作ったコードを、あとから人手で作り直す費用です。
海外では、その後始末そのものを週$10,000(約160万円)で請け負うチームが現れました。
今日は投資助言でも技術論でもなく、この現象が発注側の経営に何を突きつけているかを整理します。
AIコードの「後始末」が商売になった——slopfixという新業態
slopfixは、AIで書かれたコードベースを保守できる状態に戻すことだけを請け負う3人のチームです。
Maciejさんをヘッドに、KubaさんとKrzysztofさんの計3名。
彼らの投稿が2026年7月7日にHacker Newsを賑わせました。
面白いのは、これが「動かないものを直す」サービスではない点です。
依頼主のコードは動いています。
ただ、機能を1つ足すのに数日かかり、そのたびに別の2つが壊れる。
動くのに触れない、という状態です。
週160万円・成果連動という料金設計
週$10,000で3名を1週間投入する形ですが、注目すべきはその先です。
彼らは事前に削減目標を約束し、達成率に応じて金額を調整します。
50%削減を目標に掲げて20%しか達成できなければ、達成率は40%なので請求も$4,000(約64万円)に下がる、という按分です。
後始末という曖昧になりがちな仕事に、検収可能な計算式を先に置いている。
ここが商売として成立している理由だと僕は見ています。
依頼主は「動くけど触れない」コードを抱えた企業
依頼主の典型は、スケールの過程でコードの重複が増え続けた企業です。
急いで機能を積み増すたびに似たコードが方々にコピーされ、どこを直せば何が壊れるのか誰も把握できなくなる。
これは特殊な失敗ではありません。
速さを優先すれば通る道で、AIが開発速度を上げたぶん、この状態に到達するのも速くなっただけです。
10万行が3.5万行になる——バイブコーディングが積む技術的負債
slopfixが公開した実例が象徴的です。
あるコードベースを10万行から3.5万行へ、約65%削減しました。
行数は scc というツールで計測しています。
つまりそのコードは、3分の2近くが無くても同じ機能を提供できた。
動作に寄与しない負債がそれだけ積み上がっていた、ということです。
なぜAIが書くとコードは膨らむのか
人間のエンジニアなら、既にある関数を思い出して再利用します。
AIは指示に対してその都度もっともらしいコードを生成するので、似た処理が別の場所に何度も書かれやすい。
悪意はなく、構造として重複が増えます。
小さいうちは問題になりませんが、重複はスケールに比例して効いてきて、ある規模を超えると「1つ直すと2つ壊れる」状態に転じます。
削るのはAIではなく人間の経験
ここは正確に押さえたいところです。
一部の報道は「AIエージェントがAIコードを削除する」と伝えましたが、本人たちの説明を読むとやや単純化されています。
彼らはClaude Codeを使うものの、ごく短いリード(very short leash)で走らせ、どこを残しどこを削るかの判断は人間の経験に委ねます。
片付けたあとは CLAUDE.md のようなガードレールを装備し、同じ膨張の再発を防ぐ。
AIは道具で、判断は人間、というのがこのビジネスの前提です。
AIコード発注で経営者が備えるべきこと
日本語のネット記事の大半はエンジニア向けで、「発注した側の経営者が何を確認すべきか」を扱ったものはほとんど見当たりません。
ですがslopfixの話は、発注側の経営判断に直結する材料です。
「動く」と「保守できる」を分ける検収の目
多くの発注者は、デモが動けば検収を通します。
ですが「動く」と「保守できる」は別物です。
slopfixの依頼主は全員、動くコードの検収を通したうえで、あとから触れなくなって困っている。
検収の場で「この機能を1つ追加するのに何日かかりますか」「似た処理はどれくらい重複していますか」と一言聞けるか。
この差が、あとで払う後始末代の有無を分けます。
契約に品質の約束を書き込む
対処は難しくありません。
発注契約に、動作要件だけでなく保守性の要件を書き込むことです。
- コードの重複率をどの水準に収めるか(
sccなどで計測可能な数字にする) - 仕様や設計のドキュメントを納品物に含めるか
CLAUDE.mdのような再発防止のガードレールを引き渡すか
これらを初期の見積もり時に握っておけば、保守フェーズで後始末を別発注する二重の出費を防げます。
負債は消せませんが、どこまで許容するかを先に決めることはできます。
受注側の商機——「後始末」市場は始まっている
視点を変えると、slopfixは受注側にとっての型を示しています。
「AIで速く作る」の第一波が生んだ負債を、「人の判断で片付ける」第二波が商売になり始めた、という構図です。
成果連動の価格設計もよくできています。
削減率を先に置き、届かなければ減額すると宣言することで、成果の見えにくい後始末の発注ハードルを下げている。
日本でも同様の後始末を掲げる受託事業者が出始めています。
速く作る競争ではAIが優位でも、何を残し何を捨てるかの判断は経験が効く領域です。
まとめ——負債は管理できる。管理しないと後始末代を払う
伝えたいのは「AI開発は危険だからやめろ」ではありません。
速く作ること自体は正しい選択です。
要点は1つ、技術的負債は消せないが管理はできる、ということです。
管理しなければ、あとから週160万円級の後始末代を誰かに払う。
slopfixが商売として成立している事実が、その請求書の実在を証明しています。
発注側がやるべきは、「動くか」の先に「保守できるか」を検収に足すこと、そして負債をどこまで許すかを契約で先に決めておくことです。
ここまでやれば、後始末は突然の出費ではなく、管理された経営判断の範囲に収まります。



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