リスト作りに午前中を使い切って、架電を始めるのは夕方から。営業の現場でよくある時間配分ですが、消えた半日の中身はほとんどが検索とコピペです。チャットで話しかけながら見込み客を探し、相手ごとの評価まで付けてくれるツールが出てきたので、営業の立場で何ができて何ができないのかを整理しておきます。
見込み客リストを、チャットで探すという発想
Tablesは、企業と担当者のデータベースから営業リストを作るツールです。公式サイトによると、8億件以上集めたレコードから絞り込んだ3億件以上の検証済みプロフィールを持ち、精度は98%、つながる携帯電話番号は1億2,500万件以上とされています。データが検索結果に出るまでに5段階のチェックを通す、という説明もあります。
営業として気になるのはここからです。TablesはMCP連携に対応していて、Claudeの中から直接このデータベースを呼び出せます。管理画面で絞り込み条件を組み立てる代わりに、「関東の従業員100人から300人のSaaS企業で、人事部門の責任者」と話しかければ候補が返ってくる。リスト作成でしんどいのは条件設計の試行錯誤なので、そこが会話の往復に置き換わるのは実務的に効きます。
ただし、ここまでは全部「海外発のデータベース」の話です。日本の営業が最初に確かめるべきなのは、別のところにあります。
3億件の中に、日本企業はどこまで載っているか
公式サイトには地域別の内訳が出ています。欧州7,000万件以上、北米9,700万件以上、アジア太平洋8,000万件以上、中南米4,100万件以上。数字としては大きく見えます。
ただ、日本単体の件数や網羅率についての記載は、公式サイトのどこにもありません。アジア太平洋という括りには中国もインドもオーストラリアも東南アジアも入るので、そこから日本の実力を推測するのは無理があります。法人番号と紐付いているのか、中小企業まで拾えているのか。公開情報からは判断できません。
では確かめようがないのかというと、そうでもありません。無料プランで100クレジットが付与され、消費レートは公開されています。企業または連絡先のレコードが0.5クレジット、メールアドレスが1クレジット、携帯電話番号が10クレジット、会社の代表電話は0クレジット、AIによる情報追加は1行あたり1クレジットです。
無料枠だけでも企業レコードなら200件分は引ける計算です。自分の担当業界で、すでに取引がある会社や競合が食い込んでいる会社を20社ほど思い浮かべて、それがヒットするかを見る。自社のターゲットが載っていないデータベースは、全体が3億件でも0件と変わりません。
なお、有料プランの金額は公開されておらず、問い合わせて見積もりを取る方式です。円換算して比べられる定価がないので、予算を組む段階では問い合わせが前提になります。
ICPスコアという数字は、何を見て付いているのか
Tablesには、AIが見込み客を1件ずつ調べて、自社の理想顧客像にどれだけ合うかを採点する機能があります。公式の画面例では「ICP fit」として9点や10点の数字が付く形で紹介されています。
この数字、放っておいて勝手に付くものではありません。土台になるのは自分が定義した理想顧客像なので、「成長中のIT企業」くらいの粒度で渡すと、出てくるのはただの企業規模の並べ替えです。
定義に入れておきたいのは、業種、従業員規模、意思決定に関わる部門、既存の受注顧客に共通している条件の4点。特に最後が抜けがちです。直近で受注した10社を並べて共通項を3つ書き出し、それを定義文に足す。それだけでスコアの意味が変わります。
スコア9点と3点で、第一声を変える
ここが本題です。スコアはリストの並べ替えに使うものだと思われがちですが、私は台本の分岐条件として使うほうが価値が出ると考えています。
高スコアの相手は、自社の勝ちパターンと条件が一致している会社です。遠回りの確認から入る必要がないので、用件を先に言い切ります。
「同じ業界の人事部門で、採用管理の集計に月20時間かかっていたのを削った事例があります。御社でも同じ構造になっていないか、3分だけ確認させてください」
仮説を先に置く第一声は、当たれば一気に進みますが、外すと「うちのことを分かっていない」と受け取られます。条件が一致している確信があるときにしか使えない型です。だからスコアが高い相手に限定します。
6点から8点あたりは、一致度が読み切れない相手です。ここは仮説を断定せず、問いの形に変えます。
「採用管理の集計に、毎月まとまった時間を取られている会社さんが多いのですが、御社ではそのあたりどうされていますか」
同じ仮説でも、言い切るか尋ねるかで相手の身構え方が変わります。読み切れない相手には確認から入って、課題を相手の言葉で出してもらうほうが安全です。
5点以下はどうするか。無理に架電リストへ入れず、フォーム送信など労力の軽い接点に回す判断があってよいと思います。かける相手を絞るのも営業スキルのうちです。
チームで運用するなら、閾値をルールにしてしまうのが早いです。スコア8以上は当日中に架電、6から7は週内、5以下は架電対象外。数字で決めておけば経験の浅いメンバーでも迷いませんし、指導の材料も「もっと気合を入れろ」から「この帯の台本を見直そう」に変わります。
国内のリスト系サービスと、どう使い分けるか
「今使っているリストツールを解約すればいいのか」と思われるかもしれませんが、そこは分けて考えたほうがいいです。
国内企業が主なターゲットなら、Musubuのような法人データベースのほうが手堅いです。国内企業の情報を自社で作り込んでいて、絞り込み条件も日本の商習慣に合っています。ListGeneも国内企業のデータを持ち、AIがリストを組み立てる方向に寄せたサービスです。
一方Tablesが効くのは、外資系やグローバルに展開しているSaaSへのアプローチです。北米9,700万件、欧州7,000万件という数字が活きるのはこの領域で、国内データベースではそもそも情報が薄い相手が対象になります。
乗り換えではなく担当領域で選ぶ。国内新規開拓が軸なら国内サービスを主にして、外資系や海外拠点にも当たる必要が出たときにTablesを足す。この順番が現実的だと思います。
リストを使う前に、確認しておきたいこと
営業リストの話をするなら、ここは飛ばせません。法律の解釈そのものは私が断定できる領域ではないので、自社の法務や顧問弁護士に確認する前提で読んでください。
外部から個人データのリストを入手すること自体は、禁止されているわけではありません。ただし入手する側にも、相手がそのデータをどういう経緯で取得したのかを確認し、記録として残す義務があるとされています。個人情報保護委員会のFAQにも、取得の経緯の確認と記録、提供元がオプトアウトの届出を済ませているかの確認について記載があります。「知らなかった」で済む話ではない、という理解をしておいたほうがいいです。
メール配信には特定電子メール法もあります。広告や宣伝を目的にメールを送る場合は、原則として事前の同意が必要です。名刺交換をした相手や既存の取引先には例外の考え方がありますが、ツールで取得しただけの新規の連絡先がその例外に当てはまるかは、慎重に見る必要があります。
実務としての落としどころは、こうだと思います。取得したリストは架電先と調査対象を把握するところまでに使い、いきなり一斉メール配信をしない。最初の接触は電話か、個別に許諾を取るところから始める。導入前に法務へ確認しておきたいのは、次の3点です。
- 取得元のデータがどういう経緯で集められたものか、提供元に確認できるか
- 確認した内容を記録として残す運用が社内にあるか
- 取得した連絡先へのメール送信が、自社のルール上どこまで許されるか
数字が増えても、話し方を決めるのは自分です
チャットで見込み客を探せるようになって増えるのは、候補の数と、相手を事前に評価する材料です。増えないのは受注そのものです。リストが10倍になっても、第一声が同じなら断られる回数が10倍になるだけです。
高い相手には言い切り、読み切れない相手には尋ねる。この分岐を自分の言葉で作れるかどうかが、リストの件数より効いてきます。
最初の一歩は、無料枠で自分の担当領域を20社ほど検索してみることです。知っている会社が出てくるかどうかで、使えるデータベースかはだいたい判断が付きます。
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