登山の装備リストはAIに任せられるか、コースタイムはどうか

そうた
そうた

@yamabiraki 5本

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登山の前夜、装備を床に全部並べてから「これ全部要るのか」で30分固まる。あの時間をAIに削ってもらえないかと、海外製のAI登山アプリの公開情報を一通り調べました。すると、削れる部分と、絶対に削ってはいけない部分がきれいに分かれました。その線引きを共有します。

海外のAI登山プランナーは日本の山でも通じるのか

先に結論から言うと、装備の準備はかなり任せられます。ルートとコースタイムは任せられません。ここを混ぜて考えると準備が雑になるので、最初に切り分けておきたいところです。

今回扱うのは次の3本です。

  • Hikt - Backpacking Gear List(装備管理に特化、iOS・Android・Web)
  • GearWise(行き先と日程から装備を提案、iOS)
  • WeekTrek: AI Trail Planner(週末の行程そのものを生成、iOS)

もともとは4本を追う予定でしたが、候補の1本は調べている途中でApp Storeから引き上げられていました。配信されていないアプリを数合わせで並べても仕方ないので、今すぐ手に入る3本だけにしています。

毛色はバラバラなのに、共通点が1つあります。装備と天候の下ごしらえは得意で、日本の登山道そのもののデータは持っていない。ここが全部の話の出発点になります。

装備リストをAIに作らせると何が返ってくるか

登山装備を床に広げて確認している場面のイラスト

Hiktは「AIが装備を選んでくれるアプリ」というより、自分の装備庫をまるごとデジタル化するアプリです。持っている道具を1か所に登録し、そこからパッキングリストを組むと重量が自動で積み上がる。ベースウェイト、着て歩く分、消耗品を分けて表示するので、どこが重いのかが数字で見えます。

LighterPackやCSVからの取り込みにも対応しているので、すでに重量管理表を持っている人はそれを流し込めます。無料はパッキングリスト3件まで、有料のプレミアムで無制限になり、AIがセットアップを分析して改善点を返す機能が開きます。日本のApp Storeでの表示は月額600円、年額5,000円。価格は改定や為替で動くので、入れる前にストアの表示を確認してください。

GearWiseは逆に、まだ何も持っていない状態からでも提案が返ってくるタイプです。18カテゴリ185製品以上のデータベースを持っていて、行き先と時期と日数を伝えるとレイヤリングまで含めた装備一式が組まれます。優先順位の付け方に「survival rule of 3s」という考え方を使っているので、生存に直結するものから順に並びます。

で、肝心の「日本の山の装備を出せるのか」。レイヤリング、水、行動食、ヘッドランプあたりの普遍的な部分は普通に通じます。標高と気温から着るものを逆算する理屈は、山がどこにあっても変わらないからです。

引っかかるのはクマ対策でした。GearWiseは地域ごとに対策を出し分けるのですが、その出し分けが北米の地域差を前提にしています。西海岸ならフードキャニスターを持て、という具合です。日本のツキノワグマとは前提が違うので、鈴や食料の扱いは自分で足すことになります。

ルートと天候の判断まで任せられるのか

山の朝の空気感を描いたイラスト

WeekTrekはこの3本で唯一、行程そのものを組んでくるアプリです。誰と行くか、使える時間はどれくらいか、どんな週末にしたいかを入れると、出発時刻の目安とタイムライン、装備リストまで入った行程が1本返ってきます。ただし対応言語は英語と中国語で、日本語のUIはありません。入れる前に知っておいてください。

感心したのは、行程と一緒にリスクメモと代替の行き先が出てくるところです。天気が崩れたときの逃げ先を最初から用意させている。7日間予報も目的地エリアの分が並ぶので、週の頭に見て土曜か日曜かを決められます。

「出発時刻まで出るなら、もう自分で計画を立てなくていいのでは」と思うところですが、ここが分かれ目です。WeekTrekが拾っているのは、観光地や景勝地、大きめの公園といった公共の場所の情報で、登山道そのものの台帳ではありません。舗装された遊歩道のある公園と、鎖場のある稜線が、同じ粒度のデータとして並んでいる可能性があるということです。

裏側も公開されていて、天気はOpen-Meteo、文章の生成はDeepSeek、そしてトレイルの記録にはOpenStreetMapのデータが含まれることがある、と書かれています。OpenStreetMapは世界中を1枚でカバーする汎用の地図データで、日本の登山道のコースタイムを実測で積み上げた台帳ではありません。弱さの出どころはここにあります。

コースタイムと標高、日本の登山道データはどこまで入っているか

3本の説明文をひと通り読みましたが、日本の登山道データへの言及はどれにもありませんでした。GearWiseとHiktも対応言語は英語です。Hiktに至ってはルートもコースタイムも最初から扱わない設計になっています。

「英語のアプリでも標高くらいは出るのでは」という疑問はもっともです。標高そのものは出ます。ただ、その標高差を日本の登山者が何時間で詰めるのか、という部分が出てきません。

日本のコースタイムは、標準タイムの上に山域ごとの癖が乗っています。鎖場で渋滞する、木道で足を取られる、雪渓の通過で時間が読めなくなる。実際にそこを歩いた人の記録が大量に積み上がって初めて数字になるもので、汎用の地図データからは出てきません。

ここは記事で一番伝えたいところなので、はっきり書きます。この3本はどれも、日本の登山道の実測コースタイムを持っていません。装備の準備をAIに任せることと、日本の山の行程を組むことは、最初から別の作業です。3本を入れても、日本の山の計画が立つようにはなりません。

YAMAPやヤマレコと何が違うのか

日本勢を並べると、違いが一発で分かります。

YAMAPの「フリーハンド登山計画」は、地図を指でなぞるだけでルートが引けます。しかも引きながら距離、推定コースタイム、標高差がリアルタイムで自動計算される。既存のルートデータがないバリエーションルートや里山の散策路でも引けるのが強みです。PC版の計画画面でもフリーハンド入力が使えるようになりました。

ヤマレコの「らくルート」は、地図上の白い丸をクリックしていくだけで予定ルートが組めます。行動予定に歩く速さと休憩時間を入れれば、自分のペースに合わせたコースタイムが自動で出る。さらに「みんなの足跡」で実際の登山者のGPS軌跡がオレンジの点として重なるので、地図に道が描かれていない区間でも人が通った跡を見ながら引けます。

この2つは生成AIを看板に掲げていません。それでも、日本の登山道の実測データという一番重たい部分を持っています。逆に、手持ちの装備から逆算した提案や、装備リストのAI分析は、俺が調べた範囲ではどちらにもありません。だから両方使う、が今のところの答えです。

AIの提案を鵜呑みにすると何が起きるか

カナダで、ChatGPTにルート計画を頼んで山に入った登山者が救助される事態になった、という事例が報じられています

この報道の中で、救助の現場に近い専門家が、地図や土地管理者のサイトを確認せずにAIの生成したルートを丸ごと信じると、道に迷ったり危険な状況に置かれたりするリスクがあると指摘しています。

面白いのは、作っている側のほうが慎重なことです。WeekTrekは説明文で、計画はあくまで助言であること、出発前に毎回、公式の通行止めや警告、入山ルール、地形、日照時間、そして自分たちの実力を確認すること、そして救助サービスではないことを自分で書いています。ここまで釘を刺されているものを、こちらが盲信する理由はないでしょう。

同じ報道によると、AIルート生成機能を出したAllTrailsも、600以上の公的な土地管理機関と組んでデータの裏取りをしていると説明しています。AI単体で完結させない前提で設計されているわけです。

では自分の側で何を確認するのか。俺が必ず見ているのはこのあたりです。

  • 自治体や山小屋、管理者の公式サイトで通行止めと林道の状況
  • 登山口までの交通手段と、最終バスの時刻
  • 日没時刻から逆算した撤退時刻
  • 登山届の提出

AIが出してきた行程は下書きです。清書するのは自分で、清書に使う情報源は公式の登山道情報。この順番だけは崩さないようにしています。

3本、それぞれどこで使うか

用途で振り分けるとこうなります。

  • 持っている装備を一元管理して、重量を数字で削りたいなら Hikt
  • 行き先と日程から装備の抜けを洗い出したいなら GearWise
  • 週末の行き先と時間配分の叩き台がほしいなら WeekTrek

そのうえで、ルートとコースタイムはYAMAPかヤマレコで引き直す。ここを海外アプリに任せたままにしない、というのが今回の一番の学びでした。

装備の棚卸しにかけていた時間が減れば、その分だけ余裕が増えます。増えた余裕は行程を攻めるためではなく、引き返す判断を早くするために使いたいところです。次の週末、まずは自分の装備をアプリに登録するところから始めてみてください。