参戦記録のフォルダを開くと、自分で撮った写真と、あとから作った画像が同じ並びに入っていることがあります。撮った直後は当然どっちがどっちか分かるんですが、1年後に開いたときも見分けがつくでしょうか。今日は、記録として残す側の1枚にだけ引いておきたい線の話です。
ファンが撮った1枚しか置けないアプリがあります
K-POPのコンサート記録を集めているKONCERTSというアプリが、投稿ルールに変わった条件をひとつ置いています。AI生成のコンサート画像は受け付けない、というものです。しかも書いてあるだけでなく、投稿の審査でちゃんと弾いています。
中身は、アーティスト・ツアー・会場・都市・公演日ごとに公演を引けるデータベースと、その日に行った人が撮った写真を置いていく場所がくっついた作りです。収録は37アーティスト、58ツアー、1,034公演日、328会場、130都市、38カ国。2022年10月から2027年3月までの範囲をカバーしています。利用は無料で、WebとiOSとAndroidのどれからでも入れます。
驚いたのは、これを作っているのが1人だということ。開発が始まったのが2026年3月で、今のところ積み上がったコミットは約400。どこかの事務所やレーベルやプロモーターが後ろにいるわけでもなく、明確に独立していると言い切っています。個人が作った小さなアプリが、AI生成画像を入れないという判断を、審査というコストを払ってまで守っている。ここがこの話の面白いところなんです。
日本語には対応していないので、日本の現場でそのまま使うアプリではありません。ただ、ここで決められているルールのほうは、ジャンルも国も関係なく効きます。
なぜ本物の写真を守る必要があったのか
作っているNatalia Garzon Laigneletさんが挙げている理由が、かなり具体的でした。自分のタイムラインがAI生成の画像で埋まっていくのを見ていた。その一方で、本物のほう、つまり実際にその場の最前列にいたファンが撮った写真が埋もれていった。だから守る側に回った、という話です。
ここ、「AI画像はクオリティが低いから」ではないのがポイントです。弾く基準になっているのは上手い下手ではなく、誰がどこで押したか、という一点だけ。ピンボケでも手ブレでも、その日その席にいた人が撮っていれば通ります。逆にどれだけ構図が完璧でも、その場になかったものは通りません。
なぜそこまでするのか。記録って、1枚単位では価値が決まらないからです。100枚のうち何枚かが作られたものだと分かった瞬間、残りの何十枚も「これはどっちだろう」と疑いながら見ることになります。混ざった時点で、全部まとめて資料として1段階落ちる。だから1枚ずつ審査する、という判断になるんですね。
楽しむために作る1枚と、記録として残す1枚
これは「AI画像を作る人がよくない」という話ではまったくないです。
日本でも推し活向けのAI画像生成はどんどん広がっていて、たとえばPixAIには、推しのキャラクターを街の大型ビジョンやポップアップストアに出したようなビジュアルを1クリックで作る機能があります。運営はMetanomaly株式会社で、公開されたのは2026年6月18日。実際に広告費をかけなくても、あの光景が見られるわけです。遠征前にテンションを上げる1枚としては、正直めちゃくちゃ楽しいと思います。
私自身、チェキ風のフレームを作って現場の半券と一緒に残すのはやっていますし、あれはあれで続ける気でいます。
じゃあ何が違うのか。見る人が置いている前提が違うんです。チェキ風の1枚は「作ったもの」として見られる。参戦記録の写真は「あったこと」として見られる。この前提は画像そのものには書き込まれていなくて、置き場所とか並びとか、まわりの文脈で伝わっています。だから同じフォルダに放り込むと、伝わるはずだった前提のほうが先に消えます。
消えて困るのは誰か。他人より自分のほうです。5年前の遠征のフォルダを開いて、この会場の写真って自分が撮ったんだっけ、と一瞬でも止まったら、その1枚はもう記録として働いていません。
記録する側にAIを入れる場所は、写真の外側にあります
じゃあ記録する側でAIは一切使えないのか。そんなことはなくて、遠征の交通と宿の候補出し、2日連続の現場の持ち物と物販列の段取り、グッズの在庫を写真からリスト化する作業、帰りの電車で「やばい」しか出てこない語彙を文章にする作業。このへんは全部任せて問題ありません。どれも記録そのものを作っているのではなく、記録を残す手間を減らしているだけだからです。
分かれ目は、撮れた事実に手を入れるかどうか。明るさを上げる、見切れた端をトリミングする、傾きを直す。このあたりは撮れた事実の範囲内なので気にしなくていいです。範囲の外に出るのは、その場になかったものを足すこと、行かなかった公演の絵を作ること、撮れなかった角度を作ること。ここから先だけが線の向こう側です。
感想の言語化にAIを使うのも内側でいいと思っています。持ち込んでいるのは自分の記憶で、AIがやっているのは言葉を探すのを手伝うところまでなので。
自分の参戦記録に、線を1本引いておく
ルールを作るというと大げさですが、やることは小さく3つで足ります。
- 作った画像と撮った写真でフォルダを分ける。分けるだけでいいです
- 作った側には、ファイル名か同じフォルダの1行メモに「作った」と書き添えておく。未来の自分に向けたメモです
- SNSに出すときは、生成で作った1枚だと分かるひとことを添える。「イメージです」の5文字で十分です
3番目のひとことは他人のためというより、あとから自分のタイムラインを遡るときに効きます。遡った先で自分の投稿の真偽を判定するのって、けっこうしんどいので。
何年か経ってから見返すのは、うまく作れた1枚ではなく、ピンボケでも自分が押した1枚のほうです。次の現場では、引きで1枚だけでいいので、自分のスマホで撮ったやつを残しておいてください。それが5年後に一番強い1枚になります。



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