本編そのものより、ファンが作った切り抜きや二次創作を眺めている時間のほうが長い週、正直あります。
その状態を「ファンダムは原作より大きい」と言い切って、会社の方針そのものにしてしまった海外のAI企業があります。
中身を読み解いていくと、日本の推し活が一周先を走っていたことがはっきりしてきます。
ファンダムは原作より大きい、とCharacter.AIのCEOが言うのはなぜか。
話の主は、ユーザーが作ったキャラクターと会話できるサービスを運営している会社です。
トップに立っているのがKarandeep Anandさん、通称Karan Anandさんです。
2025年6月にCEOへ就任した人で、その前は法人カードの会社Brexの社長、さらに前はMetaとMicrosoftにいた経歴があります。
エンタメ畑というより、プロダクトとビジネスを作ってきた側の人です。
そのAnandさんが2026年5月12日公開のインタビューで、こう言い切りました。
ファンダムは元の作品よりはるかに大きい。元のコンテンツより、ファンダムに触れる人のほうが多くなる。
さらに自社をこう表現しています。
RobloxとTikTokとWattpadが一つになったようなもの。
Wattpadというのは海外で使われている小説投稿プラットフォームです。
つまり「作る場」と「短尺で流れてくる場」と「物語を書いて読み合う場」を全部くっつけたもの、という自己認識になります。
ここが面白いところなんですが、これは単なる比喩ではなく看板の掛け替えです。
「AIとおしゃべりするアプリ」から「AIエンタメ企業」へ。
キャラクターと1対1で話す道具ではなく、ファンが集まって二次的に何かを生み出す場所として自分たちを定義し直した、という宣言でした。
発言そのものは数ヶ月前のものです。
それでも取り上げる価値があると思ったのは、この方向転換がまだ進行中で、しかも日本の推し活と真正面からぶつかるテーマだからです。
なぜ今、AIエンタメ企業がファンダム経済に寄せてきたのか。
理由はシンプルで、ファンの熱量が今までずっとプラットフォームの外側で燃えていたからです。
考えてみてください。
公式が配信した映像を見て、私たちがそのあと何をしているか。
感想を書き、考察を投げ合い、絵を描き、まとめを作り、次の現場の予定を組んでいます。
この時間はどこにも計上されていません。
公式のアプリの中ではなく、SNSや同人の場でお金と時間が動いています。
そこを内側に取り込めれば大きな商売になる、というのが今回の転換の骨です。
インタビューの背景には、映像スタジオ側がファンコミュニティの経済価値に気づき始めているという文脈もありました。
作品を売って終わりではなく、そのあとに続くファンの活動まで含めて収益化したい、という発想です。
この転換の前に、同社は未成年の扱いを大きく変えています。
2025年10月29日に18歳未満へのチャットボット開放を止める方針を発表し、同年11月25日に実施しました。
未成年はオープンな会話ができず、ストーリーを読むなどの機能に限定されます。
背景にあったのは未成年の安全性をめぐる指摘で、ファンダム路線とは別の文脈の話です。
ただ結果として、権利元と組むうえで避けて通れない部分は先に整理された形になりました。
Anandさん自身、インタビューではこれを「昨年11月に」と過去の出来事として振り返っています。
二次創作と箱推しの経済規模から見て、日本はどの位置にいるのか。
ここまで読んで「それ、うちの国では常識では」と思った人、正しいです。
推し活総研の推計では、2024年の推し活市場は約3.5兆円。
推し活人口は約1,400万人で、日本の総人口の10%を超えています。
矢野経済研究所が追っている「オタク」主要16分野に絞っても、2020年の6,730億円から2024年には1兆90億円まで伸びました。
数字より分かりやすいのが現場です。
2025年12月30日と31日に開催されたコミックマーケット107には、2万3千を超えるサークルが集まり、2日間で延べ30万人が来場しました。
前回から5万人増です。
並んでいるものの大半はファンが作ったもので、それを目当てに30万人が動いています。
箱推しという言葉もそうです。
メンバー1人ではなくグループ全体を推す。
さらに言えば、メンバー同士の関係性や、ファン同士のやりとりまで含めて楽しんでいる。
推しているのは本編だけではなく、本編の周りにできた世界のほうです。
「ファンダムは元の作品よりはるかに大きい」という発言は、海外のAI企業にとっては新しい発見でした。
日本のオタクにとっては、何十年も前から体で分かっていた前提です。
この時差が、今回いちばん面白いところだと思っています。
ファンが主役になる時代に、推し活とAIの付き合い方はどう変わるか。
主役がファン活動側に移るなら、変わるのは記録の価値です。
これまで、ライブの感想も遠征の記録もグッズの台帳も、完全に自分用のメモでした。
誰に見せるでもなく、後から読み返すかも怪しい。
でも「ファン活動そのものが資産になる」という前提に立つと、書き残していないぶんだけ消えていることになります。
私が実際に続けている使い方は3つです。
- 現場から帰る電車の中で、覚えている限りをAIに話して感想を組み立ててもらう。語彙が消えるまでの体感タイムリミットは3時間くらいなので、その日のうちが勝負です
- 遠征の交通・宿・実際にかかった費用・移動の所要時間をログとして残す。次に同じ都市へ行くとき、条件を渡すだけで前回ベースの案が出てきます
- グッズを棚ごと撮ってAIにリスト化させる。持っている物が一覧になるだけで物販での二重買いが止まるので、これは優勝でした
大事なのは方向です。
AIに推しの代わりを作らせるのではなく、自分のファン活動を残す側に使う。
前者は権利的にもグレーですし、そもそも欲しいものが違います。
権利まわりは慎重にいきましょう。
推し本人の写真や肖像をAIに入れるのは避ける。
ファンアートや二次創作をAIで扱う話は、公式のガイドラインを確認してからにする。
ここを踏み外すと、せっかくの文化が窮屈になります。
一周先にいた推し活の国が、次に見ておくべきものは何か。
海外のAI企業がやろうとしているのは、外で自走していたファン活動をプラットフォームの内側に引き込んで収益化することです。
日本のファンダムは、ずっと外側で回ってきました。
即売会も、SNSの考察も、現場での交流も、誰かのアプリの中ではありません。
囲われていないからこそ自由に伸びてきた、という強さがあります。
とはいえ、公式がAIでファン向けの場を用意してくる流れは、これから確実に増えます。
乗るかどうか、どこまで預けるかは、そのつど自分で決めることになります。
判断の軸を持っておくなら「自分の推し事の記録が、自分の手元に残る形か」を見るのがいちばん実用的です。
まず試すなら、次の現場の感想を帰り道でAIに言語化してもらうところからです。
所要5分で、しかもその5分は推しに使う時間を1秒も削りません。
ファンダムが本編より大きい世界を、私たちはもう住みこなしています。
あとは、その記録を残すだけです。


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