アプリから、こちらの事情を見透かしたような時間に通知が届いて、ドキッとしたことはありませんか? 米国のスポーツベッティング大手DraftKingsが、AIで「負けそうな客」に特典を集めていたと報じられ、9月末には集団訴訟まで起きました。報道のどこまでが確かな事実なのかを分けて読むと、自分のスマホで止められるものと止められないものの境目が見えてきます。
DraftKingsのAI報道は、まだ主張の段階
発端は、米New York Timesが9月中旬に出した調査報道です。元従業員40人超への取材と社内資料をもとに、DraftKingsが2023年に機械学習のモデルを作り、オンラインカジノの客を点数化していたと伝えました。材料は賭ける頻度、日々の口座残高、賭け金に対する負けの割合などで、点数の高い人ほど無料ベットなどの特典が多く回った、とされています。
この報道を引いて、米国の電子フロンティア財団(EFF)が9月24日に論評を出しました。EFFの記事は報道を土台にした意見で、自社で集めたデータだけで出し分けが成り立っている点と、ギャンブルで問題を抱えた人ほど対象になりやすいという見立てを書いています。
DraftKingsは否定しています。広報はボストンの公共ラジオ局WBURに「損失を基準にAIで顧客を狙うことはしていない。問題ギャンブルの兆候を基準に狙うこともしていない」とコメントしました。
訴訟を起こしたのはウェストバージニア州の男性で、1か月に少なくとも70件のメールやSMSなどを受け取ったこと、AIの利用を知らせなかったのは州法違反だということを主張しています。どれも裁判所や州が認めた事実ではありません。
見出しだけ読んで「狙い撃ちされていた」と受け取っていませんでしたか? 今の時点で言えるのは「そう報じられ、会社は否定し、訴訟と調査が始まった」までです。
行動ログで画面を出し分ける仕組みとは?
運営側にいた頃、画面に出す内容は年齢や性別のような属性よりも、直近の行動で決めていました。何日ログインしていないか、イベント中に何回遊んだか、最後に課金してから何日たったか。こうした記録で利用者をグループに分け、グループごとにお知らせや特典を変えるのは、アプリ運営ではよくある作り方です。
これは業界で一般的な仕組みの話で、DraftKingsの社内がどうだったかを私が知っているわけではありません。それでも、報道されたモデルの材料が賭ける頻度や口座残高だったことには見覚えがあるんですよね。どれも利用者がアプリの中で残した記録で、外から買ってくる必要のないデータです。
AIが入ると、この分け方が細かく、速くなります。人が手で決めていたグループ分けを、モデルが一人ずつの点数に置き換えるイメージです。
あなたのスマホで、いちばん通知が多いアプリはどれでしょうか? 通知の多さは、そのアプリが「次に何を見せるか」にどれだけ力を入れているかの目安になると私は思っています。
オプトアウトが届かないファーストパーティデータ
アプリが自分のサービスの中で集めたデータを、ファーストパーティデータと呼びます。これに対して、他社のアプリやサイトのデータと結びつけて広告を出すのが、追跡型のターゲティング広告です。
スマホの広告のオプトアウト設定が止めるのは、主に後者です。Appleは開発者向けの説明で、トラッキングを「自社のアプリで集めたデータを、他社のアプリやWebサイトなどで集めたデータと結びつけて広告に使うこと」と定義しています。iPhoneでトラッキングの許可をオフにしても、アプリが自社の中だけで行動ログを使うことは、この許可の対象外です。
Androidの広告IDも考え方は同じです。Googleのヘルプによると、広告IDを削除すると、アプリが問い合わせてもIDの代わりにゼロの文字列が返ります。ただ、ログインしたアカウントにひもづく利用履歴は、広告IDがなくても会社側に残ります。
EFFが問題にしたのもここです。第三者からデータを買わなくても、自社のログだけで出し分けは成り立ちます。広告のオプトアウトは他社をまたぐ追跡には効きますが、アプリの中で起きることまでは届きません。
通知と位置情報、自分で閉じられる入口は?
会社がデータをどう使うかは止められなくても、そのデータが自分に届く道と、新しく渡す量は絞れます。運営側から見ると、プッシュ通知は離れた人に戻ってきてもらうための最も手軽な手段でした。
非営利の報道機関ProPublicaの記者は、問題のある賭け方をわざとまねてDraftKingsを10週間使う実験をしています。入金と時間の上限を設定したあとも、販促の通知は届いたそうです。通知はOSの側で切れるので、ここから始めるのが確実だと思います。
- 通知: iPhoneは「設定」から「アプリ」を開き、対象アプリの「通知」で「通知を許可」をオフにします。メールやSMSはこれでは止まらないので、アプリ内の配信設定かメール末尾の配信停止で別に止めます
- 位置情報: 「設定」の「プライバシーとセキュリティ」から「位置情報サービス」を開き、アプリごとに許可しないか、使用中だけに絞ります。正確な位置情報もアプリごとにオフにできます
- 課金の入口: スクリーンタイムで、App Storeを通したApp内課金を「許可しない」にできます。画面の名前はiOSのバージョンで変わるので、Appleの手順で確かめてください
- 広告に流れるもの: iPhoneは「プライバシーとセキュリティ」の「トラッキング」でまとめてオフにできます。Androidは「設定」の「プライバシー」から「広告」を開き、「広告 ID を削除する」を選びます
Androidでも、通知と位置情報はアプリごとの設定からオフにできます。訴訟の原告が受け取ったとされる70件には、メールやSMSも含まれていました。止めるなら、OSの通知とアプリ内の配信設定の両方です。
最後に通知の設定を見直したのは、いつでしたか?
日本で使うアプリも、行動ログで動いている
DraftKingsの件は米国で起きている話です。日本では、海外で合法に運営されているオンラインカジノでも、国内から接続して賭けるのは犯罪だと警察庁が注意を呼びかけています。
それでも、行動ログで画面や通知を出し分ける作りは、国内のゲームや通販、動画のアプリにも広くあります。気になるアプリがあれば、プライバシーポリシーで行動履歴を何に使うと書いているか、データの削除をどこに頼めるかを見てみてください。設定を変えても、すでに渡した履歴は会社側に残るからです。
賭けや課金のやめ方そのものに悩んでいるなら、設定より先に相談先があります。厚生労働省の依存症の啓発サイトに、精神保健福祉センターや保健所などの窓口がまとめられています。
報道の結論はまだ出ていませんが、アプリが手元の行動で動いていることは変わりません。今夜は通知の多いアプリを3つだけ開いて、通知と位置情報の許可を見直してみてください。

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