献立を決めて、冷蔵庫の残りを思い出して、買い物リストに落とす。
この一連を人間がやらない前提で組み立てられたスーパーが、米国に出てきました。
46分かかっていた買い物を最短4分にする、という数字まで公表されています。
バスケットサイズ10%増の裏にあった1つのAIチャット
2026年1月7日の決算説明会で、Albertsons(アルバートソンズ)のCEO、スーザン・モリスさんがこう話しています。
「Ask AI検索を使っている顧客では、すでにバスケットサイズが10%増えている」
Albertsonsは、SafewayやVonsを傘下に持つ米国の大手スーパーです。
Ask AIというのは、アプリの検索窓に置かれた会話型の窓口のこと。
商品名を打ち込む検索ではなく、「今週の夕食どうしよう」と話しかけられる場所を、検索窓そのものに作ったわけです。
2025年9月にGoogle Cloudの会話型コマース向けエージェントを小売として初めて導入した仕組みで、Albertsons、Safeway、Vons、Jewel-Osco、Shaw's、ACME、Tom Thumbの各アプリで動いています。
引っかかるのは、この10%が「うまく売り込んで増やした分」ではないところです。
同社はその後、Ask AIを含む複数のAI機能を1つのアシスタントに統合していて、2026年8月には、そちらを使う顧客の平均注文額が26%増えたと明かしました。
デジタル顧客体験部門を率いるジル・パブロビッチさんが理由として挙げていたのは、買い忘れが減るから、でした。
献立から逆算して材料を揃えると、家に帰ってから「あ、片栗粉がない」がなくなります。
その結果としてカゴが増えている。
売り込まれて増えたのではなく、買い物が正確になった副作用として増えている、という話です。
では、その正確さはどこから来ているのか。
中身を分解してみると、思ったより家庭的な作りでした。
何を相談すると、何が買い物リストになって届くのか
2025年12月3日に投入されたアシスタントは、Ask AIとは別の、もっと大きな仕事をします。
OpenAIのモデルを複数のエージェントで動かす構成で、公式に挙がっている機能は6つです。
- Plan Meals: 1週間分の献立を組んで、買い物リストまで作る
- Fridge Cleaner: 家にあるものからレシピを提案する
- Shop Recipe: レシピを取り込んで、材料をそのままカートに入れる
- Shop Lists: テキストでも画像でもリストを渡せる
- Rapid Restock: いつも買うものをまとめて補充する
- Event-Ready: 行事に合わせて必要なものを揃える
一番効くと思ったのは、Plan Mealsの中身です。
1週間分のレシピを組んだあと、複数のレシピにまたがって出てくる食材の重複をまとめてから、買い物リストにしています。
これがないと、月曜のレシピに「玉ねぎ1個」、木曜のレシピに「玉ねぎ半分」と書かれたまま、リストに玉ねぎが2行並びます。
自分でやると、この名寄せがいちばん面倒な作業です。
渡せる条件も細かい。
食事制限、世帯人数、そして作り置きを何食分に回すかまで、前提として加味されます。
手書きのメモを撮って送れば、その店で買える商品に対応づけてくれます。
46分から最短4分という数字は、この一連を人間がやらなくなった結果です。
会話型AIへの投資を競う米国スーパーの事情
この動きは1社の思いつきではありません。
WalmartはSparkyというアシスタントを、質問から会計まで通す入口として置いています。
英国のTescoは、アプリの中で会話しながらレシピを提案して、材料を自動でカゴに入れる仕組みを進めていて、2025年秋に着手して2026年中の本格展開を予定しています。
CEOのケン・マーフィーさんは、買い物の仕方を変える可能性がある、と表現していました。
Tescoの場合はClubcardという会員データを持っているので、それを一人ひとりへの調整に使う設計です。
各社が急いでいる背景には、こんな数字があります。
オンラインで買い物をした人の47%が、直近の買い物でAIを使っていました。
献立を相談する場所が、レシピサイトやSNSから、買い物ができる場所そのものに移りつつあるということです。
そしてAlbertsonsは、2026年8月にもう一歩踏み込みました。
ChatGPTの中からSafewayを呼び出して、そこで献立を相談して材料を集められるようにしたのです。
ChatGPTのプラグイン一覧からSafewayを追加して、会話の中で「@Safeway」と打つだけ。
カートの中身を確認して会計するときだけ、Safewayの画面に移ります。
相談窓口が、スーパーのアプリの中にとどまらなくなった。
ここが、日本から見ていて一番おもしろい変化です。
日本のスーパーの棚に、まだ相談窓口がない理由
私が使っているネットスーパーのアプリには、この相談窓口がありません。
検索窓に打ち込めるのは、いまのところ商品名だけです。
理由はおそらく、この仕組みがオンラインの売り場の中に住んでいることにあります。
Albertsonsの決算では、デジタル売上が前年同期比21%増、売上に占める比率が9.5%まで来ていました。
オンラインで買う人がこれだけ積み上がっているから、そのカゴが10%増える改善に投資する意味が出てきます。
献立を決める場所と、買う場所が、もともと同じ画面の中にあるわけです。
日本はここが違います。
献立はスマホで考えて、買うのは仕事帰りの店舗、という人がまだ多い。
相談窓口をアプリに作っても、カゴが増えるところまで経路がつながっていません。
ただ、待つ必要はないと思っています。
Safewayの例が示したのは、窓口はスーパー側になくてもいい、ということでした。
ChatGPTの側に相談の場所ができれば、少なくとも献立を決めて買い物リストに変えるところまでは、店の対応を待たずに自分で持てます。
足りないのは、最後にカートへ入れる部分だけです。
相談するだけの献立決めは、今日からでも始められる
Albertsonsが作ったものを分解すると、AIに渡している前提は4つでした。
家にあるもの、食事制限と好み、世帯人数、そして作り置きをどこまで回すか。
出力側でやっているのは、1週間分の献立を組んで、レシピをまたぐ食材の重複をまとめてから、1本のリストにすることです。
この構造は、そのまま家のChatGPTに移せます。
私が日曜の朝に渡しているのは、だいたいこんな内容です。
- 冷蔵庫と常備品の在庫。撮った写真でも通ります
- 家族の人数と、苦手な食材
- 平日の夕食にかけられる調理時間
- 週の後半は作り置きで回したい、という前提
そのうえで、出力を2つに分けて指定します。
1: 1週間分の献立
2: 食材の重複をまとめた買い物リスト
この2番目を明示しないと、レシピごとの材料表がそのまま並んだリストが返ってきます。
玉ねぎが3行に分かれたリストを持ってスーパーに立つと、結局その場で暗算することになります。
うちはこれで、日曜の朝5分で1週間分が決まるようになりました。
買い物は週1回で足りています。
米国のスーパーが46分を4分にしたのは、専用のシステムを組んだからです。
ただ、そこでAIに渡している前提は、家庭のキッチンにあるものと変わりません。
献立は「考えるもの」から「相談するもの」に変わりつつあります。
次に冷蔵庫の前で立ち止まったら、まず在庫を打ち込むところから試してみてください。


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