一行で済む確認をしただけなのに、前置きと気配りの3段落を読ませられた末にやっと答えが出てくる。
この苛立ちを正面から潰すためのスキルが、今週Hacker Newsで535ポイントを集めました。
ただ、このスキルが掲げている「セッション中ずっと効き続ける」という一文だけは、公式の仕様と突き合わせた瞬間に素直に頷けなくなりました。
3回スルーされたリポジトリが、4回目で535ポイント取るまで
i-have-adhdは、コーディングエージェントの返答を行動優先に書き換えるスキルです。
GitHubのスターは38,340、フォークは2,203。
数字だけ見ると新顔が一気に伸びたように見えますが、リポジトリ自体は2026年5月13日からありました。
立ち上がりがなかなか面白くて、Hacker Newsには5月18日、7月23日、8月5日と3回投稿されていて、どれも2ポイントで沈んでいます。
4回目の9月8日の投稿だけが535ポイント、コメント370件まで伸びました。
中身が劇的に変わったわけでもないのに4回目だけ刺さった、というのが今の空気です。
このスキルについて確かめたかったのは3点です。
- 「セッション中ずっと効く」という売り文句は、仕様として成立するのか
- どんなタスクで効いて、どこで物足りなくなるのか
- 8月に標準搭載された無料のConciseで足りてしまわないか
i-have-adhdとは何か。
臨床本の10ルールを、そのまま出力形式に移している
元ネタは『The Adult ADHD Tool Kit』という本です。
著者はペンシルベニア大学医学部で成人ADHDの治療研究プログラムを共同で率いてきたJ. Russell RamsayさんとAnthony L. Rostainさん。
その本の対処法をLLMの返答パターンに移し替えたものだと明記されています。
中身は10個のルールです。
- 先に次の行動を書く
- 複数手順には番号を振る
- 最後に具体的な次の一手を1つだけ置く
- 脱線を抑える
- 現在の状態を毎ターン言い直す
- 時間見積もりは「少し」ではなく分で出す
- 終わった作業を見えるようにする
- エラーは淡々と書く
- リストは5項目で打ち止めにする
- 前置きなし、要約なし、締めの社交辞令なし
「簡潔に答えて」のような曖昧な指示ではなく、守ったかどうかを外から判定できる形に落としてあるのが手堅いところです。
「数ターンで切れたりしない」と明文で書いてある
SKILL.mdの本文にはこうあります。
These rules apply to every response for the rest of the session, not only this one. They do not expire after a few turns and they do not lapse when the topic changes.
「このルールはこの返答だけでなく、セッションの残り全部に適用される。数ターンで期限切れになったりしないし、話題が変わっても失効しない」。
わざわざここまで書くということは、作者自身も効果が薄れる問題を意識していたはずです。
引っかかったのはメタデータで、タグが ADHD, Output Style, Productivity, Formatting になっています。
自分自身を「出力スタイル」寄りに分類しているわけで、この自己申告が後で効いてきます。
Hacker Newsには「8.7kライン59ファイルも要るのか、本体のSKILL.mdは140行で全体の1.6%しかない」という指摘も出ていました。
ただツリーを見ると、膨らんでいるのは .claude-plugin、.codex-plugin、.cursor、.opencode といったエージェント別の配線でした。
その約束は、仕様の側で守られるのか?
370件のコメントの中に、真正面からの反証がありました。
このスキルに限って言えば簡潔さが保たれるのは長くても数ターンで、そのあとは完全に忘れて元の際限ない冗長さに戻る、という趣旨の報告です。
明文の約束と実体験が食い違っているので仕様で裏を取ったんですが、マジでここが全部でした。
スキルの公式ドキュメントによれば、呼び出されたスキルの中身は「1つのメッセージとして会話に入り、それ以降のターンにも残る」。
そして「Claude Codeは後続のターンでスキルファイルを読み直さない」。
一方出力スタイルのドキュメントはこうです。
「Claude Codeは有効なスタイルの指示をすべてのリクエストと一緒に送る」、さらに「Default以外を選んでいる場合、会話中にスタイルを改めて念押しする」。
スキルは呼び出し時に1通置かれて終わり、出力スタイルは毎ターン送り直されて念押しまで入る。
つまりSKILL.mdの「数ターンで切れない」はハーネスが保証する仕様ではなく、差し込まれた1通の中でモデルに「忘れないでね」とお願いしている文章です。
だから「何ターンで切れるか」への答えは、絶対的なターン数ではなく、呼び出してから何ターン経ったかで決まります。
会話が伸びるほど、その1通は後ろへ流れていく。
ここから実用上の話が2つ出ます。
1つは自動起動の扱いです。
touch ~/.claude/.i-have-adhd-always を打つと毎セッション開始時に有効になりますが、これは差し込み位置を会話の先頭に固定するということ。
10ターン目には10ターン分うしろにあります。
仕様を素直に読むと、自動起動のほうが薄まりやすい向きに働きます。
もう1つが、これは罠でした。
効きが落ちたら呼び直せばいいと思うところですが、公式ドキュメントには「同一のスキルを再度呼び出した場合、Claude Codeは内容を重複させる代わりに短い注記を追加する」とあります。
10ルールの本文が丸ごと戻ってくるわけではないんです。
確実にリセットしたいなら /clear か、新しいセッションを立てるほうが早い。
どのタスクで効いて、どこで物足りなくなるのか?
10ルールを並べ直すと、効く作業と効かない作業がそのまま書いてあることに気づきます。
素直に効くのは、答えが1つに決まっていて過程を読む必要がない作業です。
コマンドの確認、エラーの原因特定、バグ修正、手順の実行。
先に次の行動を書く、番号を振る、前置きを省く、がそのまま噛み合います。
逆に物足りなくなるのは、設計判断やトレードオフの相談です。
ここでは過程そのものが成果物なので、削られた部分に価値があったことになります。
- 脱線を抑えるルールが、検討すべきだった別案を落とす方向に働く
- リストを5項目で打ち止めにするルールが、選択肢の比較と正面衝突する
- 要約なしのルールが、長い議論の着地を確認したい場面で邪魔になる
Hacker Newsにも、指示に盲目的に従うだけのものより説明が多すぎるくらいのほうを読みたい、という声が出ていました。
線引きとしては、答えが決まっていて過程が要らない作業には効く、答えを一緒に作る作業には向かない、が近いです。
無料のConciseで足りてしまう場面と、そうでない場面
2026年8月20日、Claude Code v2.1.237に標準のConcise出力スタイルが入りました。
公式の説明文がこれです。
「結果から入り、前置きとナレーションを飛ばし、既定で返答を短く保つ。そのうえでエンジニアリングの仕事はDefaultと同じだけ丁寧にやる」。
i-have-adhdの売り文句とほぼ同じことを言っています。
ただConciseのほうが1段上手いと感じたのは、例外の作り方でした。
説明や詳細を求めればちゃんと全部答えるし、エラー報告とセキュリティ警告、破壊的操作の確認は常に全文を保つと明記されています。
i-have-adhdの「要約なし」が一律に効くのとは、設計思想が違います。
切り替えは /config からOutput styleを選ぶだけで、設定ファイルなら .claude/settings.local.json の outputStyle です。
Claude Codeだけで暮らしているなら、インストール不要でハーネスが毎ターン送ってくれるConciseのほうが素直に強いです。
i-have-adhdの価値が残るのは、複数のエージェントを横断して同じ出力の型を揃えたい場合。
そしてここが反転するところなんですが、「59ファイルも要るのか」と叩かれていた膨らみは、まさにそのエージェントごとの配線でした。
Claude Code専用のConciseには、構造上できない仕事をやっています。
入れるべき人と、Conciseだけで十分な人
入れる価値があるのは、このあたりに当てはまる人です。
- Claude CodeとCursorとCopilotを日常的に行き来している
- 10ルールを自分用に書き換えて使いたい。本体は1ファイルなのでフォークして直すのが速い
- そもそもClaude Code以外がメイン。Conciseが存在しない
逆に、Conciseだけで足りるのはこのあたり。
- Claude Codeしか使っていない
- 1セッションを長く回すことが多い。1通の差し込みは距離に負ける
- 設計相談やトレードオフの議論が作業の中心になっている
入れるなら手順は短いです。
# Claude Code
claude plugin marketplace add ayghri/i-have-adhd
claude plugin install i-have-adhd@i-have-adhd
# Cursor
npx skills add ayghri/i-have-adhd -a cursor -y起動は /i-have-adhd を打つだけ。
自動起動の設定もありますが、前に書いた理由で僕は手で呼ぶほうを勧めます。
前置きが戻ってきたなと感じた時点で呼び直せるほうが、自分の使い方でどれくらい持つのかを掴めます。
評価としては、臨床本から10ルールを引いてきた設計は筋が通っているし、6つのエージェントに同じ型を配れるのは標準機能には真似できない仕事です。
ただ「セッション中ずっと効く」だけは、スキルという入れ物が保証できる範囲を超えています。
そこを割り引けば、十分に使える道具です。
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