お子さんが今日持ち帰った宿題のうち、問題文をそのままAIに貼れば答えが出てしまうものは、どれくらい混ざっているでしょうか。手元のプリントで1問試すと、たいてい出ます。ただ、出題の側を少し作り替えるだけで、貼っても答えの出ない問題になります。
そのままAIに貼れる宿題は、問題文を見ればわかります
判別の仕方は単純です。その問題文だけを切り取って誰かに渡したとき、解くのに足りない情報がありますか。なければ、それは貼れる宿題です。
たとえば、中学1年で習う方程式の文章題はこういう形をしています。
1個80円のりんごと1個120円のみかんを合わせて10個買ったところ、代金は940円でした。りんごは何個買いましたか。
数も、条件も、問われていることも、全部この中に入っています。貼れば式の立て方ごと返ってきますし、途中で手が止まる場所がどこにもありません。
誤解のないように書いておくと、こういう問題が悪いわけではありません。同じ形を繰り返して手順を体に入れる時間はどうしても必要で、教科書準拠の問題集はそのために作られています。困るのは、これを家で一人でやらせたときに、やったのが本人かどうかを誰も確かめられなくなることです。
同じ単元でも、貼っても解けない出題はこう作れます
作り替えの方向は3つあります。どれも問題を難しくするのではなく、解くのに必要な材料を問題文の外に置く、という発想です。
1. 手元にしかない材料を使わせる
家の人が最近した買い物のレシートを1枚用意しなさい。そこに書かれている商品から2種類を選び、上の問題と同じ形の文章題を自分で作り、答えも作りなさい。
レシートはAIの側にありません。商品名と単価を打ち込めば文章の体裁は手伝ってもらえますが、そのときにはもう、どの商品を選んでどの数を置けば式が成り立つかを本人が済ませています。
2. 本人の答案を材料にする
先週の小テストで間違えた問題を1問選びなさい。そのとき自分がなぜその式を立てたのかを、当時の考えのまま書き、どこで筋が変わったのかを書きなさい。
答案は本人の机の中にしかありません。しかもここで問われているのは正解ではなく、間違えた瞬間に自分が何を考えていたかです。本人以外の誰も知らない情報です。
3. その場で起きたことを条件にする
今日の授業で出たもう1つの解き方を使って、この問題を解き直しなさい。2つの解き方のうち、自分にはどちらが合っていたかも書きなさい。
教室にいなければ、その日に何が出たのかが分かりません。
3つに共通しているのは、問題文だけを切り取ると情報が足りない、という点です。AIに貼れない宿題というのは、AIより難しい問題のことではありません。本人の手元や記憶やその場の出来事を材料にしている問題のことです。この見方を持っておくと、渡されたほうの宿題も見分けがつくようになります。
米国では宿題の出し方そのものを変え始めた教師がいます
2026年9月、米国で宿題は終わるのかと題した記事が配信され、AI時代の不正に向き合う教師たちが取り上げられました。
アル・ラバネラさん(米カリフォルニア州フラートンにあるラビスタ高校の数学教師)は、生徒に「君たちが使っていない前提で話すつもりはない」と伝えたうえで、宿題を従来の問題集からポスター形式の課題や、生徒自身に問題を設計させる課題へ切り替えたと紹介されています。手順の反復を家庭に持ち帰らせるのをやめて、作らせる側に回した形です。
ジョン・シングルトンさん(米ロチェスター大学の経済学准教授)は、短い作文課題を採点することについて、今の状況では無理があるという趣旨を語っています。
これを日本の中学にそのまま持ち込めるでしょうか。そこは違います。提出物が内申点に直結していて、出したか出していないかを枚数で見る運用が残っている以上、宿題をやめるという選択は現場の一存では動きません。動かせるのは、出す枚数ではなく出題の中身のほうです。
AIで宿題を済ませたとき、何が分かっていて何が分かっていないのか
数字は出始めています。米カリフォルニア大学アーバイン校のシナ・リスマンチアンさんたちは、320万件分の数学の宿題データを分析し、ChatGPTの公開後、高校生がコピーして貼り付けられる文章題に使う時間が31%減っていたと報告しています。同時に、AIを使えない試験では、その種の問題の正答率が25%下がっていました。
教える側の認識も調べられています。米国の大学教員3,000人以上を対象にしたCollege Boardの調査(2025年夏実施)では、74%が学生はエッセイや論文の執筆にAIを使っていると答え、67%が言い換えやリライトに使っていると答えました。ここは読み違えやすいので念を押しますが、これは米国の大学教員に聞いた数字です。日本の中学校で同じ割合が出ているという話ではありません。
学ぶ側の数字も同じ範囲の話で、米国の大学生およそ3,800人に聞いたGallupの調査では、5人に1人が毎日AIを使っていました。
では、AIを使うと学力が下がると言っていいのか。そこはまだ言えません。かけた時間が減ったことと、試験の正答率が下がったことが、同じ集団で観察されてはいます。ただ、もともと解くのがしんどい生徒ほど使っているのか、使ったから解けなくなったのか、順番までは特定されていません。対象も米国で、学年の枠組みも日本の中学とは違います。
いま確かに言えるのは、提出物の出来と試験の点数がずれ始めている、ということです。そしてこのずれは、家庭からもよく見えます。宿題はきれいに埋まっているのに、実力テストの点だけが合わない。心当たりがあるなら、点数を上げる方法を探す前に、埋まっている宿題の中身を一度見てください。
日本の学校は生成AIの利用をどう位置づけているか
日本にも公式の指針があります。文部科学省の初等中等教育段階における生成AIの利活用に関するガイドライン(Ver.2.0)で、令和6年12月26日に初等中等教育局から出ているものです。
示されている方向は、全面禁止でも野放しでもありません。基本方針として掲げられているのは、生成AIに過度に依存しない人間中心の利活用と、生成AIがあることを前提にした情報活用能力の育成です。児童生徒の学習活動での利用については、発達の段階や情報活用能力の育成状況に十分留意し、リスクへの対策を講じたうえで利活用を検討すべきだ、という書き方になっています。
読み取っておきたいのは、使わせるかどうかの線引きが、学校と家庭の側に残されているという点です。では家庭は何から確認すればいいのか。お子さんの学校がどう決めているか、が先です。自治体や学校ごとにルールは違い、端末を持ち帰ったときにAIが使える設定かどうかも分かれます。学年だよりや保護者会の資料に書かれていることも多く、書かれていなければ、三者面談で普通に聞ける範囲の話です。
家庭で引く線は、宿題を始める前に決まります
終わったあとに「これ自分でやった」と聞いて、本当のことが返ってくるでしょうか。たいていは「やった」で終わります。線を引くなら、取りかかる前です。
- 使っていい工程を先に決める。問題文を貼るのは無し、分からない語句の意味を聞くのは有り、というように、内容ではなく工程で区切る
- 答え合わせが終わったあと、1問だけ問題文を伏せて、どう解いたかを口で言わせる。言えれば通過、言えなければその問題は明日もう一度やる
- AIに何を聞いたかを、ノートの端に1行だけ残させる。親が検査するためではなく、本人があとで見返すため
- 問題文の中だけで完結している宿題だと分かったら、終わったあとに「この数字を、家にあるもので置き換えて作り直して」と1問だけ足す
最後の1行は本来なら出題する側の仕事ですが、1問だけなら家庭でも足せます。作り直せたかどうかで、その単元が手順として入っているのか、答えとして入っているだけなのかが見えます。
AIを使わせるかどうかで悩む時間は、そろそろ短くしていいと考えています。使える環境はもう子どもの手元にあり、隠れて使われるほうが見えなくなるからです。決めるべきなのは、どの工程を本人の手に残すか。問題文の外に材料を置く、という発想さえ持っておけば、宿題は作り替えられます。


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