会社の飲み会は減り、休日に会う相手は家族だけ。
この変化を抱えているのは、社員だけではないかもしれません。
ただ、情緒の話として片づけてしまうと、そこで終わります。
数字に置き換えると、まったく違う景色が見えてきます。
40〜60代男性を取り巻く需要の指標はどれも右肩上がりなのに、この層に向けたサードプレイス事業はほぼ手つかずのままです。
つまり、まだ誰も本格的に取りに行っていない市場が、目の前にあるということです。
市場規模を示す数字と海外の先行事例を押さえたうえで、日本で今すぐ検討できる事業アイデアに落とし込んでいきます。
40〜60代男性の居場所不足を、数字に置き換えてみます
生涯未婚率28%、2050年には単独世帯が44%になります
50歳時点で一度も結婚していない男性の割合は、2020年で28.25%。
1980年は2.60%でしたから、40年で10倍以上になっています。
かなり急な変化です。
単独世帯も同じ方向に動いています。
2020年時点で全体の38.0%、2,115万世帯。
国立社会保障・人口問題研究所の2024年推計では、2050年に44.3%、2,330万世帯まで増えるとされています。
世帯の半分近くが一人暮らしになる社会に、この国は向かっているということです。
国のほうも、孤独・孤立対策推進法を2024年4月1日に施行しました。
孤独や孤立を個人の問題ではなく社会全体の課題と位置づけた法律です。
事業者から見れば、このテーマを正面から扱ってよくなったということでもあります。
孤独感のピークは、高齢層ではありません
内閣府が全国の16歳以上2万人に実施した調査では、孤独感が「ある」と答えた人が計4割弱でした。
しばしば・常にあるが4.5%、時々あるが13.7%、たまにあるが19.5%です。
意外なのは年代分布です。
最も高いのは30代で約43%、50代・20代・40代も4割を超え、60代以降は3割台半ばに下がります。
これは男女計の数字です。
孤独は高齢者のテーマとして語られがちですが、数字の山は現役世代側にあります。
つまり、狙うべきはリタイア後の余暇市場ではなく、いままさに働いている管理職・専門職層だということです。
ここを外さずに済むだけでも、事業の的は絞れます。
団塊ジュニア800万人が、いま50代前半にいます
1971年から1974年生まれの4学年は各年200万人超、合計で約800万人。
2024年10月時点で50歳から53歳です。
日本で最も人口の厚い層が、そのまま役職定年の見えてくる世代に入っています。
背景には、職場が友人をつくる場として機能しにくくなるトレンドもあります。
飲み会の強制がなくなり、リモートで雑談が減り、上司と部下の距離の取り方に配慮が求められる。
副作用として「会社に行けば人間関係が自動供給される」という前提が崩れました。
肌感ですが、この市場のTAMを一発の数字で出そうとすると、たいてい水増しになります。
使えるのは感度のほうです。
月1万円のサービスに10万人が払えば年120億円、50万人なら年600億円。
想像してみてください、この800万人のうちのわずか1%強が動くだけで、120億円規模の市場が生まれる計算です。
何人に届けば事業になるかを先に決めたほうが、意思決定には効きます。
では、この機会に対して、海外はどこまで先を行っているのでしょうか。
海外のコミュニティ事例と、日本の価格帯にある空白
Soho House、会員27万人と待機リスト11万人
ロンドン発の会員制クラブSoho Houseの2024年度は、総収益12億ドルで日本円にして約1,800億円、うち会員費収入が4.18億ドルで約630億円です。
会員数271,541人、2024年第2四半期時点の入会待機リストは約11万人でした。
正直、この待機リストの数字には驚きました。
11万人が「お金を払ってでも入りたい」と並んでいるわけです。
それが意味するのは、場所が足りないことではありません。
審査を通ってでも入りたい場所が足りない、ということです。
Men's Sheds、豪州で拠点が200から1,300超に
オーストラリア発のMen's Shedsは、木工や金属加工の道具が揃った作業場を地域に置く取り組みです。
2005年に約200だった拠点は、いま1,300を超えました。
ここが面白いところなんですが、Men's Shedsは「男同士で話しましょう」とは一言も言っていません。
売っているのは工具と作業台と、直すべき何か。
会話は作業の副産物として発生します。
いわば、しゃべることを目的にすると人は来ないけれど、直すものがあれば自然と口が開く、という設計です。
Hampton、当初の年会費128万円で会員1,000人超
米国のHamptonは起業家・経営者に絞った会員制コミュニティです。
2023年の公開ローンチ時点の年会費は8,500ドル(約128万円)でしたが、2024年には9,500ドル程度(約143万円)に、参加条件も年商100万ドルから300万ドル(約4.5億円)以上へ引き上げられたと報じられています。
会員1,000人超、ARRは約800万ドル(約12億円)です。
値上げして、参加のハードルまで上げても、会員は1,000人を超えています。
10人前後で定例的に話すという構造そのものは、特別なものではありません。
この価格を成立させているのは、入り口の審査のほうです。
日本の選択肢は、年4,000円と年50万円に割れています
同じことを日本の価格軸で並べると、空白がはっきり見えます。
低いほうの実例が、神奈川・町田で1991年から続くじゃおクラブです。
中高年男性に交流と社会参加の機会を提供する会で、会費は年4,000円、会員は122名(2025年9月時点)。
30年以上続いている事実そのものが価値ですが、この単価では事業としては伸びません。
高いほうは、Soho Houseが日本初進出として南青山の表参道Grid Towerに構えるSoho House Tokyo。
年会費は東京限定のローカル会員で50万5,000円、世界の全拠点を使えるEvery House会員で62万円です。
率直に言うと、この表の真ん中がまるごと空いています。
年4,000円のボランティア的なクラブと年50万円のラグジュアリーの間に、月5,000円から1万円台で質の担保された同世代コミュニティがない。
しかも海外3事例の共通点は、交流そのものを商品にしていないことでした。
ここからが本題です。
この空白を埋める事業アイデアを、5つに分けて見ていきます。
1. 会社が払うサードプレイス、福利厚生としてパッケージ化する
個人向けに売ると、この市場は驚くほど売れません。
40〜60代の男性は、自分の居場所に月1万円を払うことを自分に許可しないからです。
趣味や健康には払うのに、つながりには払わない。
なので請求先を法人に変えます。
企業向け研修サービス市場は2024年度で5,858億円、2025年度は6,130億円が予測されています。
この予算の5%が越境学習やミドル層の場づくりに回れば、それだけで年約300億円です。
看板は「孤独対策」ではなく「ミドル層のリスキリング」や「越境学習」に。
同じ中身でも、呼び方ひとつで決裁の通りやすさはまったく変わります。
買う側の稟議が通る言葉で書くだけで、受注率は変わります。
次のアイデアは、法人を挟まず、個人に直接届ける型です。
2. 目的を先に売る、手を動かす会員制の常設拠点
Men's Shedsの構造を、補助金ではなく月額で回す型です。
木工、電子工作、車やバイクの整備、家電の修理。
工具と作業台と広い机がある場所を都市近郊に置いて、会員制にします。
いわば、大人のための秘密基地です。
集まること自体が目的の場所に、男性はまず来ません。
直すものがある、作りかけがある、という理由が要る。
その理由を設備の側で用意してしまうのが肝です。
月1万2,000円で会員200人なら、拠点あたり年2,880万円。
100拠点で年約29億円です。
ネックは初期の設備投資と、平日昼の稼働率をどう埋めるか。
ここが解けない限り多拠点展開は成立しません。
次は、箱すら持たない、もっと身軽な型を見ていきます。
3. 足りないのは道具でも金でもなく幹事、趣味の予定を売るサブスク型ビジネス
こちらは箱を持たない型です。
登山、釣り、自転車、キャンプ。
40〜60代男性がこの手の趣味から遠ざかる理由は、道具でも予算でもなく、一緒に行く人と日程を決める人がいないことにあります。
だったら、予定と同行者だけを売ればいい。
言ってみれば、みんなの幹事役を外注できるサービスです。
アウトドア用品・施設・レンタル市場は2024年度4,634億円、2025年度は5,059億円の予測。
登山人口は日本生産性本部の調査でコロナ前が650万人前後、直近は500万人程度まで減っています。
かりに500万人の1%が月5,000円払うとすると年約30億円です。
固定費がガイドの人件費と保険くらいで済むので、単月黒字までが早い。
裏を返せば参入障壁も低いので、幹事の腕そのものが差別化要因になります。
次は、もっと踏み込んだ、プライベートな悩みに向き合う型です。
4. 役職定年と親の介護、同世代だけの相談コミュニティ
Hamptonは入会条件を年商で切りました。
日本の40〜60代で同じ設計をするなら、切り口は年代と立場です。
50代の管理職・専門職限定、といった具合に絞ります。
話す内容は、役職定年後の身の振り方、親の介護と仕事の両立、転職市場で自分に値段がつくのかどうか。
会社では立場上言えず、家では心配をかけるので言わない領域です。
ここに、10人前後の同世代とファシリテーターがいる場を用意します。
年12万円で1万人なら年12億円。
オンライン主体なら原価の大半はファシリテーターの人件費です。
守秘の運用設計とファシリテーションの質、この2つが崩れた瞬間に会員は静かに消えます。
最後は、自分で箱を持たずに始められる、いちばん身軽な型です。
5. 箱を作らず既存施設に乗る、ジムとサウナへのコミュニティ機能提供
自分で場を作らず、すでに中年男性が通っている場所に機能だけを乗せる型です。
フィットネスクラブ市場は2024年度に約7,100億円で過去最高を更新する見込み、施設数は2025年8月時点で全国13,876。
同じ時間に来ている常連同士が一言も交わさないまま解約していく施設が、これだけあるということです。
施設側に売る言葉は「孤独対策」ではなく「解約率とLTV」です。
同じ時間帯の会員をグループ化する仕組み、月1回の合同プログラム、継続の可視化。
施設の継続率改善をKPIに置きます。
13,876施設に月5万円で入れば年約83億円。
レベニューシェア型なら上振れします。
自前で箱を持たない分、立ち上がりも早い。
ここまで5つの型を見てきましたが、実際に動くとなると、先につぶしておくべき論点があります。
この市場に入る前に、潰しておきたい3つの論点
1: 価格帯設計。
月5,000円から1万円台の空白は魅力的に見えますが、この帯はCACの回収が最も難しい。
単価が低くて広告費が乗らず、口コミだけで埋まるほど分かりやすい商品でもない。
最初の100人をどこから連れてくるかを、事業計画より先に決めるべきです。
2: 継続率。
会員制の失敗は解約から始まりません。
来なくなった会員がしばらく払い続け、ある日まとめて解約する。
見るべき指標は解約率より、6カ月後の出席率です。
3: 打ち出し方。
「孤独な中年男性のための」と書いた瞬間に、申し込みはゼロになります。
誰も自分をそのラベルで呼びたくないからです。
看板は目的(作る、登る、学ぶ、相談する)に置いて、つながりは結果として起きる。
海外3事例が共通してやっているのは、この順番の設計でした。
実務的な注意もひとつ。
継続課金なら解約条件と価格表示を消費者契約法や景品表示法の観点で確認する必要がありますし、飲食や酒類が入れば営業許可や深夜の酒類提供の届出も絡みます。
ここに挙げた5つは着想の起点なので、法規制と参入障壁の検証は個別に、必要なら専門家を入れて進めてください。
まとめ サードプレイス市場は「誰に請求書を出すか」で決まる
生涯未婚率28%、2050年に単独世帯44%、団塊ジュニア800万人。
40〜60代男性向けサードプレイスの需要側の数字は揃っているのに、供給側は年4,000円と年50万円に割れたままです。
この市場で最初に決めるべきは、コンセプトでも立地でもなく「誰に請求書を出すか」だと僕は考えています。
本人か、勤め先か、施設か。
ここが決まれば、価格も看板も自動的に決まります。
5つのアイデアのうち、自社の強みと一番噛み合うのはどれか。
まずはそこから考えてみてください。





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