「AIに仕事を奪われた開発者たちが、仕返しにAIのCEOを作った」
そういう見出しでGitHubのリポジトリがHacker Newsに投稿され、1,009ポイントと700コメントまで伸びていました。
リポジトリも公式サイトも端から読んだんですけど、その経緯を裏付ける記述はゼロでした。
1,009ポイントを集めたあの見出しは、投稿する人が付けたものでした
Hacker Newsの投稿を開くと、リンク先は github.com/sentelabsai そのものです。
つまり「CEO fired developers to make room for AI. Developers create open source AI CEO」というあのタイトルは、リポジトリの説明文でもプレスリリースでもなく、投稿した人が書いた見出しでした。
Hacker Newsはリンクを貼る人がタイトルを付けられる仕組みなので、リポジトリのURLに物語が1本かぶさった状態です。
リポジトリ側の説明文は「AI-powered virtual executive team」から始まる淡々としたもので、解雇にも仕返しにも触れていません。
Sente Labsの公式サイトも、自社を multi-agent AI のR&Dラボと説明しているだけです。
面白いのは、この話を見出しに採用した英語ニュースの本文でした。
IBTimesの記事は逸話を見出しに掲げておきながら、本文では「SenteLabsの公開資料もGitHubリポジトリも、このプロジェクトがAIに職を追われた開発者によって作られたとは書いていない」と自分で否定しています。
見出しだけが独り歩きした典型なので、この記事でも事実としては扱いません。
8体のClaudeが並列で動いて、ユーザーには1人として返ってくる
物語のほうは空振りでしたが、中身はマジで真面目に作られています。
役職は8つで、CSO、CFO、人事責任者、法務、COO、CMO、CPO、そして取締役会コミュニケーション担当。
モデルは役割で3段に分かれていて、標準は claude-sonnet-4-6、CSO・CFO・法務・取締役会まわりの深い推論だけ claude-opus-4-7 を拡張思考つきで使い、ユーザーの意図分類は claude-haiku-4-5-20251001 に流しています。
Executive Orchestratorがメッセージを受け取り、関係する専門家を並列で呼び、それぞれがChromaDBから担当領域の文脈を引いてきて、最後に1つの回答へ統合されます。
で、READMEにはっきり書いてあるんですが、内部のエージェント構成はユーザーに見せません。
8人の役員に順番に相談する画面ではなく、1人のエグゼクティブが答えてくる画面になります。
ここ、後で効いてきます。
日本語圏の「組織図の絵」批判に、OpenExecutiveは何点取れるか
日本語圏では少し前に、Claude CodeでAI経営組織を作るブームへの批判が出ていました。
サブエージェントにCFOやCMOの役職名を振っただけの構成は普通のClaude Codeとほぼ変わらず、その上にCEO役を足すと「監督のための監督」でトークンを溶かすだけ、という話です。
意味を持たせるには3つ要る、というのがその主張でした。
並列稼働、エージェント同士が直接メッセージを交換すること、共有のタスクリストで進捗が可視化されること。
これがないと組織図の絵に過ぎない、と。
OpenExecutiveをこの3つで採点すると、きれいに割れます。
並列稼働は合格です。
オーケストレーターが専門家を並列で呼ぶ設計が明記されています。
エージェント同士の直接メッセージは不合格。
ドキュメントを読む限り専門家同士がやり取りする経路はなく、統合はオーケストレーター1箇所でしか起きません。
共有タスクの可視化も不合格なんですが、ここが一番面白いところで、OpenExecutiveは意図的に逆へ振っています。
内部を見せないことが売り文句なので、「誰が何をやっているか可視化される」の真逆を狙って設計されている。
「AI経営組織」というひとつの言葉の下で、正反対の設計思想が同時に走っているわけです。
先月の判断を覚えている仕組みがいちばん実務っぽい
エピソディックメモリの実装が個人的には一番刺さりました。
応答が終わるたびに claude-haiku-4-5 がバックグラウンドで走り、決定事項・進行中の施策・出したアドバイスをSQLiteへ抜き出します。
次のセッションは ブロックから始まるので、先月何を勧めたかを踏まえた状態で会話が再開します。
プロンプトキャッシュは最初の数ターンを過ぎると最大85%のヒット率、と書かれています。
置き場所も広くて、Slack、メール(IMAP/SMTPポーラー)、Telegram、Discord(スラッシュコマンド対応)、Google Chat、それとCLIから叩けます。
動かすまでに要るもの、ANTHROPIC_API_KEYだけでは終わりません
必須の環境変数は ANTHROPIC_API_KEY 1本だけです。
ただしそこへ到達するまでが pip install 1行では終わりません。
uvデプロイで罠がひとつあって、スケジューラが UPDATE ... RETURNING を使う都合上、シングルインスタンス前提です。
何も考えずにスケールさせると事故ります。
Anthropic APIを使わない道も用意されていて、LOCAL_MODELS_ENABLED を立ててOpenAI互換のエンドポイントを向ければ、OllamaでもLM StudioでもvLLMでもllama.cppでも動きます。
これはIssueとして要望が上がって、実際に取り込まれた機能です。
経営判断を任せる話ではなく、壁打ち相手として置く道具です
数字で見ると、2026年8月29日時点でスター2,471、フォーク202、オープンなIssueは0件でPRが4件。
初回公開が2026年6月11日で、同じ時点のコミットが32件です。
2か月半で32コミットなので開発ペースは速くありませんが、直近のpushが8月28日、Issueも同じ日に閉じられているので、放置されたリポジトリではありません。
一方で公式のベンチマークは出ていません。
速度も精度も信頼性も、使う側が自分の環境で測る前提です。
そしてREADMEには、人間のガバナンスを前提とする旨の但し書きが見当たりませんでした。
それが何を意味するかは、クローズ済みIssueのタイトルがよく表しています。
「[Bug] My executives are paying themselves very big bonuses!!」
AI役員が自分たちに巨額のボーナスを出していた、というバグ報告です。
笑い話に見えて、権限を持たせた瞬間に何が起きるかの縮図でもあります。
僕の結論はシンプルで、これは意思決定を任せる道具ではなく、8つの視点から一気に叩き返してくれる壁打ち相手として置くものです。
CFOの目線とCMOの目線と法務の目線を同時に浴びる体験自体は、ひとりで判断を回している人にはかなり効くはずです。
ただし出てきた答えをそのまま実行する前に、README以上の但し書きは自分で用意してください。

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