「まわりに使っている人なんて、ひとりもいませんよ」。
同じ年ごろの方と話すと、たいていこう返ってきます。
ところが海の向こうでは、この1年で65歳以上の使い手がほぼ倍に増えていました。
アメリカでは65歳以上の5人に1人が使っています
アメリカの調査機関ピュー・リサーチ・センターが、今年2月に5,119人の大人にたずねた結果を6月に発表しました。
65歳以上でChatGPTを使ったことがある人は19%。
およそ5人に1人です。
去年の同じ調査では10%でした。
1年で、ほぼ倍になっています。
若い世代の欄を見てください。
ほとんど動いていません。
伸びているのは、下の段のほうです。
別の団体の調べでも、同じ向きの数字が出ています。
アメリカの高齢者団体AARP(エーエーアールピー)が50歳以上にたずねた調査では、ChatGPTのように文章で答えてくれるAIを使ったことがある人は2023年に9%、2024年に18%、2025年には30%。
こちらも毎年のように、倍に近い増え方をしています。
では、増えた分の方々は、若い家族に手取り足取り教わったのでしょうか。
数字を細かく見ていくと、どうもそうではなさそうです。
止めていたのは、操作の難しさではありませんでした
先ほどのピュー・リサーチ・センターの調査では、こうしたアプリを使っていない人に、その理由もたずねています。
いちばん多かったのは「興味がない」で83%。
次が「個人情報が心配」の79%、「答えが正しいかどうか心配」の76%と続きます。
「使い方が分からない」は55%で、4番目でした。
この順番が大事です。
手を止めていた一番の理由は、操作を覚えられないことではなく「自分には関係がない」という気持ちのほうだったわけです。
AARPの調査でも、ChatGPTのようなAIに関心がないと答えた50歳以上は59%いました。
だとすると、この1年で増えたのは操作を覚えた人ではありません。
自分の用事とAIが結びついた人です。
きっかけは、たいてい大したことではないはずです。
献立が思いつかない。
案内文の書き出しで手が止まる。
届いた通知の意味が分からない。
その程度の、日々のちいさな困りごとからです。
夜中に思い出した話を、誰も起こさずに話せます
AARPが50歳以上にたずねた別の調べには、こんな数字もありました。
AIが広まると「人と人との関わりが減るのではないか」と心配している人が68%。
7割近くです。
気持ちはよく分かります。
ただ、私はここを逆に受け取っています。
減るのは人と話す時間ではありません。
人に言うほどでもない話を、ひとりで抱えている時間のほうです。
夜中にふと思い出したこと。
また同じ話かと思われそうで飲み込んだこと。
孫のことで少し引っかかっているけれど、娘に言うと大ごとになりそうなこと。
そういうものの置き場所が、ひとつ増えるだけの話です。
誰かを起こす必要もありませんし、あとで蒸し返される心配もありません。
読んだ本の感想を打ち込むと、それについて質問が返ってきます。
答えているうちに、自分がどこを面白いと思ったのかがはっきりしてくる。
それだけのことですが、けっこう楽しいものですよ。
孫のために保育園を千か所調べた人もいます
もうすぐ孫が生まれるという年配の男性が、AIを使って千か所を超える保育園の一覧を作っていたそうです。
アメリカの記事で紹介されていた話です。
特別な技術がいる話ではありません。
条件を並べて「表にしてください」と頼むだけです。
人間なら途中で嫌になる作業ほど、頼む値打ちがあります。
たとえば、こんな頼み方になります。
「娘の家から車で20分以内の保育園を探しています。0歳から預かってくれるところと、園庭があるところが分かるように、表にしてください」
条件が抜けていても構いません。
あとから「土曜日もやっているところだけにしてください」と足せば、その場で作り直してくれます。
保育園でなくても同じです。
通える範囲の病院を比べるとき、法事の宿を選ぶとき、リフォームの見積もりを並べるとき。
たくさんある中から条件で絞り込む場面は、AIがいちばん得意にしているところです。
私たちが今日できるのは、ひとつだけです
アメリカの数字を見て「向こうは進んでいる」と思う必要はありません。
65歳以上で19%ということは、裏を返せば8割はまだ使っていないということです。
去年は9割が使っていませんでした。
それが8割になった。
動いたのは、その差の分だけです。
面白いのはここからで、使っていない方に「これから1年のうちに使いそうですか」とたずねると、7割は「たぶん使わない」と答えています。
そう答える人がこれだけいる一方で、数字のほうは毎年動いています。
使わないつもりでいることと、実際に始めるかどうかは、あまり関係がないのかもしれません。
ですから、今日やることもひとつで足ります。
いま気になっていることを、思ったままの言葉で打ち込んでみてください。
上手な聞き方を覚えてからにしよう、と思わなくて大丈夫です。
数字が倍になったのは、誰かが号令をかけたからではありません。
ひとりずつ、自分の用事から始めただけです。
その順番でいいのなら、今日でも遅くはありませんよ。



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