「きれいめの白ブラウス、5,000円くらい」。
この条件を検索窓に打ち込んで、出てきた何十枚もの画像を上から順にスクロールしていく。
あの工程がまるごと要らなくなる形が、今年に入って一気に増えてきました。
検索窓に言葉を打ち込んでは、何十枚もの商品画像をスクロールしていた
通販で服を探すのって、けっこうな重労働なんですよね。
まず頭の中のイメージを単語に分解します。
「とろみ」「ブラウス」「オフィス」あたりを並べて打ち込んで、絞り込みで色とサイズと価格帯を指定する。
そこまでやっても、出てくるのは200件だったりします。
上から画像を見て、気になったものをタップして、詳細を読んで、戻る。
これを何往復かするうちに、最初に探していたものの輪郭がぼやけてくるんですよね。
しんどいのは、翻訳の作業をこちら側が毎回引き受けているところです。
「きれいめだけど堅すぎない」を検索窓が読める単語に直すのは、私の仕事になっている。
うまく直せなければ欲しいものは並ばないし、並ばなかった理由が自分の言葉のせいなのか、そもそも在庫にないのかも分かりません。
チャットに話しかけるだけで、探していた服が動画つきで返ってくる
イギリスのアパレル大手ASOSが、2026年5月20日にChatGPTの中で動くアプリを出しました。
ASOS Stylistという名前で、対象はイギリスとアメリカです。
やることは、ChatGPTに話しかけるだけ。
公式が挙げている例は「春向けのパステルの花柄でAラインのワンピースを見せて」という頼み方です。
単語に分解しなくていいし、絞り込みのメニューを開かなくてもいい。
カテゴリでも、シーンでも、トレンドでも、思いついた切り口のまま伝えられます。
面白いのは、返ってくるものが静止画だけではないところです。
動画コマースのBambuserという会社の技術が使われていて、ASOSの商品カタログと動画ライブラリを、AIが読み取れる形のデータに変換しています。
その結果、チャットの中に商品の動画が並びます。
通販の画像って、正面からの1枚だと分からない部分が残るんですよね。
歩いたときに裾がどう揺れるのか、生地に落ち感があるのかないのか。
サイズ表を10回読んでも埋まらないところが、動画だと数秒で分かります。
探せる範囲はASOSが扱う数百のブランドで、ASOS DESIGNやTopshopといった自社ブランドも含まれます。
ただ、「そのまま買える」の「そのまま」がどこまでを指すのかは、押さえておいたほうがいいです。
買うところだけは、ChatGPTの外に出る
ChatGPTの中で決済まで終わるわけではありません。
チャットで商品を見て、詳細を開いて、気に入ったら「Shop on ASOS」をタップする。
そこでASOS.comに移って、会計はそちら側で済ませる設計です。
つまりChatGPTが引き受けているのは、探して、見て、比べるところまでになります。
とはいえ、この線引きは思っているほど残念でもないんです。
服探しでいちばん時間を食っているのは、支払いの手続きではなく候補にたどり着くまでの部分なので。
カートに入れてカード情報を打つ1分と、200件をスクロールする20分。
減らしたいのは明らかに後者なんですよね。
この動き、海外だけの話ではなくなっている
「イギリスとアメリカの話でしょ」と思いますよね。
日本でも、ほぼ同じ時期に同じ入口が開いています。
ZOZOが2026年3月9日に、ChatGPTの「Apps in ChatGPT」への対応を発表しました。
メッセージの頭に「@ZOZO」と付けて話しかけると、会話の内容からコーディネートとアイテムを提案してくれます。
材料になっているのは、WEAR by ZOZOに集まった1400万件以上のコーディネート投稿です(2025年12月時点)。
シーンや天気、好みのテイストを会話の中から拾って、そこに合うコーデ画像とアイテム情報を返す形ですね。
WEARやZOZOTOWNの会員登録は要らなくて、ChatGPT側でアプリ連携をすれば使えます。
そして5月には、Yahoo!ショッピングも同じ仕組みに対応しました。
発表は2026年5月21日で、ASOSのちょうど翌日です。
こちらは総合ECモールとしては初の対応で、ファッションだけでなく家電や日用品、食品まで扱います。
「@Yahoo!ショッピング」と付けて話しかけると、商品画像と価格、特徴を出してくれます。
公式が挙げている例が「一人暮らし向けの安い炊飯器」や「5,000円以下の母の日ギフト」で、条件が曖昧なまま投げても会話の中で詰めていける、というのがポイントです。
服に引き寄せると「オフィスで浮かない、でもきれいめすぎない」みたいな、単語に落としづらい頼み方ができるということですね。
あの翻訳の作業を、向こう側が引き取ってくれる。
どちらも購入まで会話の中で終わるのかは、発表資料に書かれていません。
なのでASOSと同じく、探すところを預けて買うのは各サービスの画面で、と考えておくのが安全だと思います。
服を探す相手が、アプリから会話する相手に変わってきている
3つに共通しているのは、新しいアプリを探してダウンロードして、また別のアカウントを作る工程が1つも要らないことです。
行き先はChatGPTのまま変わらなくて、その中身のほうが増えていく。
これ、今までと逆なんですよね。
便利な機能が生まれるたびに、私たちは新しいアプリを入れる側でした。
ワードローブ管理のアプリ、コーデ提案のアプリ、フリマのアプリ。
ホーム画面が埋まって、通知が増えて、結局開かなくなるものも出てきます。
今回起きているのは、企業のほうが「すでに開かれている画面」に自分から入ってくる動きです。
ASOSでプロダクトを統括するメリッサ・リム(Melissa Lim)さんも、発表の中で「お客さまはますますAIで買い物をするようになっているのに、その体験はばらばらのままだ」と話しています。
散らばった行き先を1つにまとめる側に回る、という判断ですね。
たとえるなら、行きつけの店の品揃えが勝手に広がっていくような感じです。
私たちが新しい行き先を覚えるのではなく、いつもの相手に頼める種類が増えていく。
探すのが速くなった分、どこで立ち止まるか
日本からASOS Stylistが使えるのかは、公式の発表に書かれていません。
対象として挙がっているのはイギリスとアメリカだけなので、今の時点では期待しすぎないほうがよさそうです。
一方でZOZOとYahoo!ショッピングは、今すぐ試せます。
ChatGPTのアプリ一覧から連携して、頭に「@」を付けて話しかけるだけなので、3分もかからないと思います。
ここからは私の考えです。
探すのが速くなるというのは、買うのも速くなるということなんですよね。
200件をスクロールする20分は、しんどいけれど、その途中で「やっぱりいらないかも」と気づく時間でもありました。
会話で3分で見つかると、その余白のほうが先に消えます。
なので私は、見つけてもらったあとに一度クローゼットを開けることにしています。
似たものをもう持っていないか、その1枚が入る隙間があるか。
探す手間はいくらでも渡していいと思っています。
渡さないでおきたいのは、そのあとの数分のほうです。




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