はじめに
これから語っていくのは、私がいつも考えている「推し活とお金」について、推し活費を罪悪感なく軽やかに使いながら、貯金に回すお金を毎月コツコツ積み上げるのを、助けてくれるアプリが|創《つく》れないか?と頭を悩ました結果生み出たものについてです。
最終的にモックアップという形までは持っていけましたが、機能を盛り込みすぎたせいで月をまたぐと、新しく収入額が(無の状態から)発生したり、生活費として残ったお金が貯蓄に回らないなど、とても実用性のある状態にはなりませんでした。
しかし、モックとして「アプリに込めた私の想い」には、十分触れる仕上がりになったと感じています。
画像は開発中のものです。画像は開発中のものです。
それでは、このアプリの開発に至った経緯をAIと私が壁打ちしたやり取りを「妄想企画会議」としてご覧入れましょう。
「おしめぐ」が生まれた日
小さな会議室、というよりはオンライン上の一室に、五つのアイコンが並んでいた。 プロダクトオーナー(PO)、UI/UXデザイナー、テックリード、PM/ディレクター。そしてもう一人、この日だけ招かれた特別な参加者がいた。 推し活の実践者であり、noteに感想文やエッセイを書き続けている棚島香帆汰(たなしま かほた)である。 PMが画面共有を開きながら、少し緊張した声で切り出した。「今日までに、実は四つの案が別々に作られてきました。 それぞれ独立に企画会議をして、それぞれに良いアイデアが出ています。 でも、企画名も、予算の考え方も、技術方針もバラバラなんです。
今日はこれを一本化して、最終決定まで持っていきたいと思います」POが小さく頷く。
「四つとも読みました。方向性が違うように見えて、実は同じ現象を別の角度から見ているだけなんですよね。今日はケンカするための会議じゃなくて、統合するための会議にしましょう」
そう言って、POは調査資料の一節を画面に映した。
「大事なのは、ユーザーは意志が弱いわけじゃないってことです。四案すべてが同じ結論に辿り着いている。 承認欲求、FOMO、間欠強化……仕組みのほうがユーザーを動かしている。だから私たちが作るべきなのは、"我慢させる"仕組みじゃなくて、"仕組みで守る"仕組みなんです」
「貯金」という言葉への違和感
ここで棚島が、遠慮がちに手を挙げた。
「あの、いいですか。四つの案、私も全部読ませてもらったんですけど……。どれも、悪くはないと思うんです。 先取りするとか、24時間待つとか、比較しないとか。実際、私自身もそういう工夫でなんとか回している部分があるので」
「ただ」と棚島は少し言葉を選ぶように続けた。
「『貯金』とか『予算』っていう言葉が最初に来ると、なんだか自分がお財布に管理されているような気持ちになるんです。そう思ったのは、多分、こういう理由があって……私が実際に続けられている工夫って、"我慢している"感覚じゃないんですよね。 使ったお金が、また次の楽しみとして自分に戻ってくる。そういう手触りのほうが近い気がします」
UI/UXデザイナーが身を乗り出した。
「それ、すごく重要な指摘だと思います。私たちの案も、Claudeさんの案も、結局『貯金アプリ』の延長線上で設計してしまっていたかもしれません」
「はい」と棚島。「たとえば私、noteに文章を書くのが好きなんですけど、それって"記録すること自体"が、自分の中に何が残ったのかを確かめる作業だからなんです。だから、もしこのアプリを作るなら、振り返りの部分も、数字の集計じゃなくて、自分の言葉で残せる場所にしてほしいなと思いました」
PMが小さくメモを取りながら言った。
「棚島さんの意見は、UI/UXについては優先的に採用する約束でしたね。ここは早速反映しましょう」
課題の再定義
議論は次に、そもそも何を解決するアプリなのか、という根本の話に移った。 POが四案の中からある案の課題設定を取り上げる。
「このチームの整理が一番構造を捉えていたと思います。『感情が理性を上回る瞬間に、未来への影響を考える時間と情報が足りないまま、支出行動に移ってしまう』。これは核心を突いていると思います」
テックリードが頷きつつ、少し付け加える。
「技術目線で言うと、これは"止める"仕組みじゃなくて"間に合わせる"仕組みの設計なんですよね。判断材料を、感情が高ぶっている瞬間にどう届けるか、という話」
棚島がまた口を開いた。
「材料を届けるだけだと、まだ足りない気がしていて……。既存の管理アプリって、その瞬間に返してくるのが数字とか制限とか、無機質な情報だけじゃないですか。 そうすると、やっぱり『管理されている』って感じてしまう。必要なのは、買っていいかどうかのジャッジじゃなくて、自分にとってこれがどういう意味を持つのか、を自分の言葉で確認できることなんじゃないかなと思うんです」
この一言で、会議の空気が変わった。PMがホワイトボードに大きく書き込む。
「支出の可否を判定する仕組み、ではなく、支出の意味を自分の言葉で確認できる仕組み。これを最終的な課題設定にしましょう」
全員が異論なく頷いた。
名前をめぐる攻防
続いて、プロダクト名の話に移った。ここでも四案は割れていた。
POが四つの企画で出されていた製品名を挙げていく。
「『推し活貯金パートナー』は分かりやすいけど、ちょっと説明的すぎるかもしれません。『Oshi-Safe』は……『Safe』って、危険から守る、みたいなニュアンスが強くないですか?」
UI/UXデザイナーが同意する。
「『安全』を前面に出すと、逆に『推し活は危険なもの』という前提を強めてしまう気がします。それは今日決めた設計原則、"感情を否定しない"に反しますよね」
「『推し助』はどうですか」とPM。
「親しみやすいと思いますが」棚島が少し困ったような、でもはっきりした声で答える。「うーん……『助ける』って言われると、自分が助けられる側、守られる側っていう感じがしてしまって。 私、それこそさっき言った『管理される感覚』に近いものを、この名前にも感じてしまうかもしれません」
沈黙が少し流れた。PMが「じゃあ、どんな名前ならしっくりきますか」と棚島に尋ねる。
棚島はしばらく考えてから、ゆっくりと言葉にした。
「私、さっき『使ったお金が、また次の楽しみとして戻ってくる』って言いましたけど……それって、"巡る"って感覚に近いんですよね。 貯めて終わりじゃなくて、使って、貯まって、また使えるようになって。その繰り返し自体に意味があるというか」
UI/UXデザイナーが弾かれたように反応した。
「『めぐる』、いいですね……。『おしめぐ』とか、どうでしょう。推しを、めぐる」
POがしばらく画面を見つめ、口の中で「おしめぐ、おしめぐ……」と繰り返してから、笑って言った。
「いいと思います。『貯める』でも『守る』でもなく、『めぐらせる』。これなら、ユーザーは管理される側じゃなくて、循環に参加している側になれる」
テックリードも「言葉として軽くて呼びやすいのもいいですね」と付け加え、この場で名称は「おしめぐ(Oshi-Megu)」に決定した。キーメッセージも、棚島の発言をほぼそのまま拾う形で、その場でPOが読み上げる。
「『推しへの想いはそのままに、お金の流れだけ、整える。使う・貯まる・また使える。その巡りを、自分のペースで』。これでいきましょう」
予算モデル、対立の解消
次の議題は、四案の中でもっとも実務的な対立点だった予算モデルである。 ひとつは「貯金・推し活・生活」への先取り3分割。 次に「未来の予定を先に登録して、今使っていい金額を逆算する」という考え方。
PMが両者を並べて映す。
「これ、実はどちらか一方を選ぶ必要はないんじゃないかと思っていて」テックリードが画面を指しながら言う。
「3分割案は、月初にざっくり枠を決める話ですよね。未来予定登録は、その"推し活枠"の中身をさらに細かく管理する話。レイヤーが違うだけで、両立できます」
POが具体的に組み立てていく。
「じゃあ、まず月初に収入を入れて、貯金・推し活・生活にスライダーで分ける。これがレイヤー1。その上で、推し活枠の中に、ライブとか遠征とかの予定を個別に登録できるようにする。 それで、"今使っていい金額"を、推し活枠の残高から未達成の予定分を引いた額として表示する。これがレイヤー2です」
UI/UXデザイナーが画面のイメージを描きながら言う。
「たとえば、『今月の推し活枠15,000円』『9月ライブ、必要12,000円、もう12,000円貯まってる』『10月遠征、必要25,000円、まだ8,500円』……そういう表示があって、その下に大きく『今、使っていい金額 4,200円』って出す感じですね」
棚島がその画面イメージを見て、小さく頷いた。
「これなら、"枠を決められて息苦しい"んじゃなくて、"未来の自分の楽しみを、今の自分がちゃんと守れてるかどうか"が分かる感じがします。安心できる数字、という感じがします」
PMがまとめる。
「これで予算モデルの対立は解消ですね。Grok案の分かりやすさと、GPT案の納得感、両方活きています」
機能の統合 ― 「ほしいBOX」と「尊いボタン」、そして新しい発想
続いて機能面の統合に入った。ここでも四案にはよく似た機能がそれぞれ別の名前で存在していた。 「24時間ロック」、「ほしいBOX」、「本当に必要?確認画面」
UI/UXデザイナーがこれらをひとつにまとめる案を出す。
「これ、全部同じ機能の別の実装なんですよね。欲しいものを見つけたら、まず"ほしいBOX"に入れる。 24時間経つまでは買えないようにする。それだけだと、Geminiさんの案が言う"我慢させられてる感じ"になりかねないので……」
棚島が続きを引き取るように言った。
「待ってる間に、なんでこれが欲しいと思ったのか、少しだけ書けるとうれしいです。書くと、自分でも本当に欲しいのか分かるので。 それに、24時間後に『今も欲しい』か『今回は見送る』か選ぶとき、どっちを選んでも、同じくらい肯定してほしいです。見送ったからってエラい、買ったからってダメ、みたいにはしたくない」
POが「それ、いいですね」と頷く。
「見送っても買っても、どちらも"自分で納得して決めたこと"として扱う。他の案にも似た考え方がありましたが、棚島さんの言葉でより具体的になりました」
次に、「推し事貯金」、いわゆる「尊い!ボタン」の話になった。
「推しが尊いと思った瞬間に、ワンタップで100円とか500円を貯金枠に入れる機能ですね」とPM。「これは四案ともポジティブに評価されていました」
テックリードが実装のイメージを話す。
「これは単純にlocalStorageに加算していくだけなので、技術的には軽いです。むしろ大事なのはUXの見せ方かなと」
棚島が少し笑いながら言う。
「これは好きです。使う、じゃなくて、貯める方にも"尊い"を使えるのって、なんだか推し活っぽくていいなと思います」
振り返り機能、数字から言葉へ
そして、この日の会議でもっとも新しい発想が生まれたのが、振り返り機能についての議論だった。 「満足度タグ」というアイデアがあり、購入後に「後悔」「満足」「大満足」といったタグを付ける仕組みが提案されていた。UI/UXデザイナーがまずそれを紹介する。「○○さんの案では、支出のあとに満足度を星やタグで記録して、あとで集計する、という発想でした。これはこれで、傾向を見るのには良い機能だと思うんですが」
棚島が、ここでもう一度、冒頭の話に戻るように言った。
「さっきも言ったんですけど、多分、星3つとか、タグひとつだけだと、私は3日くらいで見なくなると思います……。それよりも、短くていいから、自分の言葉で一言残せる場所がほしいです。『思ったより満足した』でも『ちょっと勢いで買っちゃったな』でもいい。あとで読み返したときに、そのときの自分の気持ちが分かる方が、続けられる気がします」
PMが「それ、月末の振り返りにも活かせそうですね」と言うと、棚島は頷いた。
「はい。月末に見るのが、グラフとか数字の集計じゃなくて、『今月残したメモの一覧』だったら、読み物みたいで楽しいと思います。それこそ、noteの記事を読み返す感じに近いかもしれません」
POが感慨深そうに言う。
「これ、今日いちばんの発見かもしれません。既存の家計簿アプリにも、他の三案の満足度タグにもなかった視点です。数字ではなく、記録を"自分の物語"として残す。これを"おしめぐ"の核のひとつにしましょう」
UI/UXデザイナーが機能名を提案する。
「じゃあ、この機能は『推し活ログ』と呼びましょうか。支出でも、貯金でも、見送りでも、全部にひとことメモを添えられるようにして」比較しないこと、責めないこと
ここでテックリードが、少し話題を変えて技術面の懸念を共有した。
「機能が増えてきたので整理したいんですが、四案が共通して"やらない"としていたことも、改めて確認しておきたいです。他ユーザーとの比較、ランキング、SNS的なタイムライン。これは全案一致していたので、そのまま踏襲でいいですよね」
POが即答する。
「もちろんです。『比較されない表彰』というアイデアも、良い意図ではあるんですが……」
棚島が少し表情を曇らせながら言った。
「バッジとか称号みたいな演出は、正直ちょっと苦手です。それこそ、推し活で疲れる原因と同じ仕組みだと思うので……ガチャとか、限定商法とか、ランダムなリアクションとか。褒めてもらう、というより、『変わらず大事にできてるね』って、そっと確認できるくらいがちょうどいい気がします」
UI/UXデザイナーが同意しつつ整理する。
「では、ゲーミフィケーション的な演出はPhase 2以降に持ち越しにして、今回のMVPには入れないことにしましょう。入れるとしても、間欠強化に似た仕組みにならないか、慎重に検討してからにします」
続いて、提案していた「リカバリーモード」についても確認が行われた。予定より使いすぎてしまったときに、責めるのではなく次の一手を提示する機能である。
「これは全員好意的でしたね」とPM。「『大丈夫、ここから立て直しましょう』というメッセージと、『次の買い物を3日待つ』『今週500円貯める』のような選択肢を出す」
棚島が「これは、いいと思います」と頷く。
「使いすぎたときに責められると、多分、もっと使ってしまうと思うので……。責められないことが分かっていると、逆に素直に見直せる気がします」
言葉づかいとデザインの最終確認
機能面がほぼ固まったところで、UI/UXデザイナーがトーン&マナーの最終確認に移った。
「言葉づかいなんですが、四案とも『警告しない』『説教しない』は一致していました。ただ、実際の文言まではあまり詰められていなかったので、ここも決めておきたいです」
棚島が自分の書く文章のことを引き合いに出しながら言う。
「私、普段はわりと詩的な言い回しを使うことが多いんですけど、このアプリの中の言葉は、それとは分けたほうがいい気がします。装飾的な言葉より、短くて素直な言葉のほうが、記録として後で読み返したときに残る気がするので」
POが「なるほど」と頷きつつ、「では、断定的な指示文じゃなくて、選択肢を渡すような言い方にしましょう。『使いすぎです』ではなく『ここから立て直しましょうか』のように」とまとめる。
配色については、すでに近い方向性が示されていたため、大きな変更なく「紫やピンクを基調にしつつ、数字部分は冷静なコントラストを持たせる」という方針がそのまま採用された。
技術方針、シンプルさへの回帰
最後に議題に上がったのが、技術スタックだった。 一つの案だけが「React+TypeScript、将来のバックエンド追加を見据えて」という提案をしており、他の三案はシンプルなVanilla JavaScriptを想定していた。
テックリードが率直に意見を述べる。
「今回のプロトタイプの目的って、"UXに価値があるかどうかを確かめること"ですよね。だとしたら、フレームワークを入れる必要は、今はまだないと思います。むしろシンプルに作って、素早く触ってフィードバックをもらうことを優先したいです」
PMも同意する。
「たしかに、10日とか2週間で動くものを触りたい、というのは他の三案でも共通していましたね。今回はVanilla HTML/CSS/JavaScript、データ保存はlocalStorageで一本化しましょう。データ量が増えてきたらIndexedDBへの移行を検討する、という含みは残しておいて」
POが最終確認する。
「銀行連携や外部API連携も、今回はなし。プライバシーと心理的安全性を優先する、という点も四案とも一致していましたね」
棚島がここで、少しほっとしたように言った。
「それは安心です。推し活のお金の話って、正直、誰にも見られたくない部分もあるので……端末の中だけで完結する、というのはすごく大事だと思います」
会議の終わりに
一通りの議論を終え、PMが最終的な結論を読み上げた。「『おしめぐ』は、推し活を我慢させるアプリでも、貯金を管理するアプリでもありません。使ったお金が、貯金として、次の推し活として、自分の納得として、めぐってくる感覚を、仕組みと記録の両方で支えるアプリです」
POが締めくくる。
「四つの案が積み上げてくれた、先取り、物理的な上限、比較の遮断、衝動へのワンクッション。どれも今日のプロダクトにちゃんと生きています。 そこに、棚島さんが持ち込んでくれた"記録は自分の意味づけの作業である"という視点が重なって、はじめて今日の形になったと思います」
棚島は少し照れたように笑いながら、最後にこう言った。
「なんだか、自分の悩みがそのままアプリの形になっていくのを見るのは、不思議な感じがします。……でも、これなら、私自身が一番使いたいアプリになりそうです」
その言葉に、全員が静かに頷いた。次のアクションとして、UI/UXデザイナーがワイヤーフレームの作成に取りかかること、そのレビュー工程には必ず棚島が加わることが確認され、この日の企画会議は終了した。画面の向こうで、PMが最後につぶやいた。
「めぐる、か。いい名前ですね」
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