OpenRouterで謎のトップモデルが2カ月間も居座っていた話、追ってた人ならモヤモヤしてたはずです。
その正体は Meituan の LongCat-2.0 でした。
1.6兆パラメータのMoEを中国製ASICだけで学習した挑戦作を、スペック・料金・Kimi K3やGLM-5.2との立ち位置まで、一次情報ベースで整理していきます。
LongCat-2.0とは Owl Alphaとして首位を独占していた匿名モデル
OpenRouterのランキング上位に Owl Alpha という素性不明のモデルがしばらく居座っていました。
2026年6月30日、この匿名モデルの正体が Meituan の LongCat-2.0 だと発表されて、界隈が一気にざわつきました。
Meituan (美団) は中国のフードデリバリーと生活サービスの巨大企業で、AIモデルを出している印象は正直薄い会社です。
それがいきなり1.6兆パラメータのフロンティア級モデルを、しかも2カ月間ステルスで実績を積んでから種明かしをした、というのが今回のインパクトの正体です。
約2カ月の匿名運用中に Owl Alpha が処理したトークンは月間10.1兆。
1日平均で約5,590億トークン、前月比242%成長という異常な数字を叩き出していました。
「新規モデルだから使ってみて」というアピールではなく「実力があるからもう使われている」を実績で証明してから正体を出す、この段取りが上手いと感じます。
Nvidia を1枚も使わずに1兆超モデルを学習した、という中国製オープンウェイトモデルとしての政治的な文脈もあります。
先に品質を証明してからブランドを出す方が、スペック論争の土俵に上がるより強い、という判断だったのでしょう。
ここが今回の記事で一番おもしろい部分です。
1.6兆パラメータMoEと1Mコンテキストのスペック整理
LongCat-2.0 のスペックは Hugging Face のモデルカードで公開されています。
総パラメータは1.6兆、そのうちトークンあたり約480億がアクティブになる MoE 構造です。
この480億は固定値ではなく、クエリの難易度に応じて330億から560億の間で動的に変わります。
コンテキスト長はネイティブで100万トークン。
ここに LongCat Sparse Attention (LSA) という独自の疎注意機構を組み合わせ、100万トークン級を扱ってもメモリ消費を抑える設計になっています。
長いコードベース全体を放り込んでもコストが跳ねにくいのは、実務で効きます。
投機的デコーディング用の3ステップ Multi-Token Prediction モジュール、1,350億パラメータを含む N-gram Embedding、3.5兆トークン超という訓練データ量など、規模はフロンティア級です。
ライセンスは MIT。
商用利用制限なしで、weights は GitHub と Hugging Face から落とせます。
中国製ASICで学習した意味 Nvidia不使用という選択
LongCat-2.0 が業界に与えた本当のインパクトは、性能そのものより「Nvidia を1枚も使わずに1兆超モデルを学習した」という事実の方です。
Meituan の公式発表では訓練インフラは AI ASIC superpods としか書かれておらず、チップベンダー名は明示されていません。
海外メディアでは5万基超の国産ASICで学習したと報じられている段階です。
米国の対中半導体規制で先端GPUの入手が難しくなった中国が、独自ハードでフロンティア級を訓練できたという実証事例が出た、というのが本当の意味です。
運用まで含めて全部国産チップでやりきる、というエンドツーエンドの完結性が今までのモデルと違います。
経営視点の深掘りは別記事に譲るとして、少なくとも「中国製オープンウェイトはNvidiaがないと動かない」という前提はもう成り立たない、と押さえておいて損はないです。
API料金は促進価格で他社の半額以下
LongCat-2.0 のAPI料金は驚くほど安いです。
促進価格が入力$0.30 / 出力$1.20 (100万トークンあたり)、標準価格でも入力$0.75 / 出力$2.95。
しかもキャッシュ読み込みは無料です。
円換算 (1ドル150円想定) で促進価格が入力約45円 / 出力約180円、標準価格でも入力約113円 / 出力約443円 (100万トークンあたり)。
同じMoE系オープンウェイトのKimi K3が入力$3 (キャッシュ$0.30) / 出力$15なので、標準価格でもKimi K3の1/4から1/5の水準です。
同じコードベースを何度も読ませるエージェント用途では、キャッシュヒット無料がさらに効いてきます。
長いコンテキストをフル活用したい人にとっては、この料金設定は現状かなり強い方です。
ベンチマーク数値の見方 自社発表であることを踏まえて
Meituan が公表しているベンチマークスコアはこう出ています。
- SWE-bench Pro: 59.5 (GPT-5.5の58.6を上回るとされる)
- GPQA-diamond: 88.9
- Terminal-Bench 2.1: 70.8
大事な前提として、これらはすべて Meituan の自社発表値です。
第三者機関による独立検証は、私が確認した範囲では公開されていません。
SWE-bench Pro で GPT-5.5 を上回るという結果がどこまで実運用でも成立するかは、しばらく現場での検証待ちという段階です。
総合力の位置付けについては、海外報道で「Gemini 3.1 Pro相当、Claude Opus 4.7 / 4.8 には届かず」とされています。
コーディング用途に振っているが、フロンティア最上位ではない、というのが現時点での妥当な理解です。
使い方 Hugging FaceとOpenRouterの2ルート
触ってみるならルートは2つです。
OpenRouter経由で試す
一番手軽なのは OpenRouter からAPI経由で叩く方法です。
既存のOpenAI互換SDKで model=meituan/longcat-2.0 を指定すれば動きます。
促進価格が使えるうちに試すのが得策です。
コーディング系のタスクで感触を掴んでおくと後で判断が早くなります。
セルフホストする場合
MITライセンスなので、Hugging Face から weights を落として自前で動かすことも可能です。
ただし1.6兆パラメータ級の推論に必要なGPUやASICの量は個人レベルではまず厳しいので、現実的には企業のオンプレ環境か、クラウドの大型インスタンスでの検証用途になります。
Kimi K3 GLM-5.2との3モデル比較でLongCat-2.0を位置付ける
同じ2026年前半に出た中国製オープンウェイトLLMは Kimi K3 と GLM-5.2 が代表的です。
それぞれ性格が違うので、並べて比較します。
並べると立ち位置がはっきりします。
1: 料金の安さ = LongCat-2.0が圧倒。
促進価格ならKimi K3の1/10。
エージェントで大量にトークンを流す用途では現状ダントツです。
2: 総パラメータ規模 = Kimi K3 (2.8兆) が最大、LongCat-2.0 (1.6兆) が2位、GLM-5.2 (7,530億) が3位。
ただしアクティブパラメータで見ると LongCat-2.0 の480億が3モデル中最大クラスで、1トークンあたりの計算量では優位です。
3: コーディング特化 = GLM-5.2 は SWE-bench Pro 62.1 と3モデル中最高スコア。
純粋にコーディング性能を求めるなら現状GLM-5.2が有力です。
一言でまとめると、LongCat-2.0 は「安さと総パラメータ規模のバランスが良く、エージェント運用向き」、Kimi K3 は「総パラメータ最大の万能型」、GLM-5.2 は「コーディング特化の切れ味」というポジション分けです。
3モデルとも100万コンテキストとMIT系ライセンスを揃えてきているので、選択は料金と用途で決まる時代に入ったと言えます。
まとめ
LongCat-2.0 の要点を3つに絞ります。
1: Owl Alpha として2カ月間OpenRouterで首位を走っていた匿名モデルの正体で、Meituan が中国製ASICだけで学習した1.6兆パラメータMoEです。
2: API料金の促進価格 (入力$0.30 / 出力$1.20) は競合の1/4から1/10という水準で、エージェント運用のコスト構造を根本から変えるインパクトがあります。
3: Kimi K3 は総パラメータ最大、GLM-5.2 はコーディング特化、LongCat-2.0 は安さと規模のバランス、というのが現状の3モデルの棲み分けです。
次に見るべきポイントは、Meituan が標準価格に移行するタイミングと、第三者検証による SWE-bench Pro スコアの再確認です。
安さを武器にどこまで実運用に浸透するか、しばらくウォッチしていきたい話題です。



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