「ご利用のカードを一時停止しました」という件名のメールが、ある朝届いたとします。
娘に電話するほどでもなく、かといって消してしまう度胸もない。
あの宙ぶらりんの数十秒は、スマホに一言たずねるだけで終わりにできますよ。
「カードのご利用を停止しました」というメール、見分けがつきますか?
文面はこんな具合です。
「お客さまのカードに不審なご利用が確認されたため、一時的に停止いたしました。お手数ですが、下記より1時間以内にご確認をお願いいたします」
差出人の名前も、いつも使っている会社のものになっています。
昔の詐欺メールなら、すぐに分かりました。
日本語がどこかおかしかったからです。
助詞の使い方が変だったり、漢字が1文字だけ中国のものだったり。
今は、そこがきれいに直っています。
敬語の運びも、改行の入れ方も、本物と同じです。
何通か並べて見比べてみましたが、文面だけでは決め手になりませんでした。
見分けがつかないほうが、むしろ普通なんです。
見分けがつかないのは、注意が足りないからではありません
理由は単純で、詐欺のほうの文章もAIで作られるようになったからです。
誤字も、不自然な言い回しも、今はほとんど残りません。
長いあいだ言われてきた見分け方が、そのぶん効きにくくなりました。
差出人のアドレスを確かめる。
急がせる言い方に気をつける。
どちらも今でも大事なことですが、これだけで白黒つけるのは正直むずかしくなっています。
ですから「私はしっかりしているから大丈夫」という構え方は、あまり守りになりません。
守りになるのは、その場で誰かに見てもらうことのほうです。
ただ、その誰かがいつもそばにいるとは限りませんよね。
そこを埋めてくれるのが、スマホの中のAIです。
怪しいメールは、そのままAIに見せてしまえばいいんです
やることは3つです。
- 届いたメールの画面を、そのまま写真に撮る
- AIのアプリを開いて、その写真を送る
- 「これは詐欺のメールでしょうか。そう思う理由も教えてください」と打つ
画面を写真に撮る操作は、iPhoneなら右側のボタンと音量を上げるボタンを同時に押します。
丸いホームボタンがあるiPhoneをお使いなら、ホームボタンと右側のボタンを同時に。
Androidは電源ボタンと音量を下げるボタンを同時に押します。
うまく撮れていれば、いつもの写真の一覧にその画面が入っていますよ。
AIのアプリをまだ入れていない方でも大丈夫です。
よく使われているのはChatGPT(チャットジーピーティー)で、無料のままでも写真を見てもらえます。
返ってくるのは、詐欺の可能性が高いのか、それとも問題はなさそうか、という見立てです。
そして、そう考えた理由が続きます。
差出人のアドレスが、その銀行の正式なものと一字だけ違う。
1時間以内という急かし方が、本物の案内では使われない。
押させようとしている先の文字列が、公式のものと別物になっている。
こういうことを、順に並べて教えてくれます。
自分では気づけなかった一字違いを指摘されたときは、あらまあ、と声が出ました。
ひとつだけ気をつけることがあります。
口座番号や暗証番号、生年月日が写っている部分は、指で隠して撮るか、消してから送ってください。
アメリカでは今年の1月に、これを高齢の方向けに専門でやる会社も始まっています。
Jortty(ジョーティ)といって、怪しいメールを決められた宛先に転送すると「詐欺です」「詐欺の疑いがあります」「問題ありません」のどれかで返事が来て、そう判断した理由も付いてきます。
無料で使える枠があり、しっかり使うなら月20ドル、日本円でおよそ3,000円からです。
「95パーセント当たる」は、作った会社が自分で出した数字です
この会社の発表文には「95パーセントの精度で見抜く」と書かれています。
心強い数字ですが、これは会社が自分で出したものです。
外の誰かが確かめた結果ではありません。
AIも間違えます。
そして怖いのは、間違えて「詐欺です」と言われたときではなく、間違えて「問題はなさそうです」と言われたときのほうです。
ですからAIの答えは、決めるための材料であって、答えそのものではないと思っておいてください。
大丈夫と言われても、メールの中の押せる文字には触れない。
書かれている電話番号にもかけない。
確かめるときは、カードの裏や通帳に印刷されている番号に、こちらからかける。
この順番さえ守っていれば、まず間違いは起きませんよ。
日本でも、お金を取られているのは私たちの世代です
警察庁がまとめた2025年の数字を見ると、特殊詐欺の被害は全国で27,832件、金額にして1,423億円でした。
前の年のほぼ2倍です。
だまし取られた1件あたりでは、523万円になります。
このうち65歳以上の方の被害は14,273件、金額で841億円。
会社が狙われた分をのぞいた件数で見ると全体の51.3パーセント、金額では59.2パーセントを占めています。
目を引いたのは、件数の割合が前の年より14ポイントも下がっていることでした。
私たちの世代の被害が減ったからではありません。
件数だけを見れば、前の年より535件増えています。
20代や30代にも被害が広がって、分母のほうが大きくなっただけの話です。
詐欺はもう、年齢で線を引ける話ではなくなりました。
それでも、取られたお金の6割はやはり私たちの世代から出ています。
最初にどこから接触されたかも出ていて、いちばん多いのは電話で78.8パーセント。
メールやメッセージは13.8パーセントです。
ただし、身に覚えのない料金を請求してくる手口に限ると、メールやメッセージが47.9パーセントで最も多く、前の年より20ポイントも増えていました。
日本にも、この用途の専用アプリはありますよ。
トレンドマイクロの詐欺バスターは、怪しい画面の写真を送るとAIが判定してくれます。
ホームページの画面、警告の表示、広告、ショートメール、メール。
どれも見てもらえます。
ただしこの詐欺チェックの機能は、30日の体験期間が過ぎると有料になります。
毎回きちんと見てもらいたい方は、こちらを検討してもいいと思います。
今日できるのは、迷惑メールを1通、練習で見せてみることです
本物が届いてから初めて使うのでは、たいてい慌てます。
ですから、何ごともないうちに一度だけ試しておいてください。
メールのアプリに「迷惑メール」という箱があるはずです。
開けてみると、たいてい何通か入っています。
その中の1通で構いません。
写真に撮って、AIに見せて、「これは詐欺のメールでしょうか」と聞いてみる。
どんな言い方で答えが返ってくるのかを一度見ておけば、本番で戸惑わずに済みます。
かかる時間は1分ほどです。
あの数十秒のあいだ、一人で決めなくていい。
それが分かっているだけで、宙ぶらりんの心細さはずいぶん軽くなりますよ。




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