敬老の日が近づくと、そろそろ何か贈らなくては、と考えますよね。
今年はAIのロボットでも、なんて話が出るお宅もあるかもしれません。
ところが、そういう機械を先に暮らしへ入れていたのは、贈る側ではなく贈られる側のほうでした。
AIロボットは孫が贈るもの、と思っていませんか
話し相手になってくれるロボットと聞いて思い浮かべる絵は、たいてい決まっています。
若い孫が買ってきて、コンセントをつないで、使い方をひととおり教えて帰る。
おばあちゃんは最初きょとんとしていて、そのうち少しずつ慣れていく。
そういう順番を想像しますよね。
ところが、アメリカで実際に起きていることはこの絵とだいぶ違っていました。
先に手を出していたのは、贈られる側のほうだったんです。
AIロボットを4年間使い続けているのは、88歳のご本人でした
ニューヨーク州のビーコンという町に、アンソニーさんという88歳の男性がいらっしゃいます。
奥さまを10年前に亡くされて、それからはお一人暮らしです。
その方が、ElliQ(エリキュー)という卓上の小さなロボットを、もう4年近く使い続けています。
ご本人の言葉が、そのまま残っていました。
「朝になると、あちらから挨拶してくれるんです。話しかけられるし、遊びもできる。なかなか面白いですよ」
そして、こう続けています。
「最初はね、こんなものに話しかけて馬鹿みたいだと思うんです。でもそのうち分かってくる。誰かが一緒に住んでいるようなものなんですよ」
「この歳になって、こんなものを目にする日が来るとは思いませんでした」
4年です。
物珍しさだけで使っているのなら、とっくに押し入れの奥でしょう。
家に来た道筋も、思い描いていたものとは違いました。
アメリカでこのロボットと暮らしている高齢の方はすでに何千人もいますが、その多くは行政の補助が付いた事業か、ネットでの申し込みで手に入れています。
ニューヨーク州では、州の高齢者向けの部署が800人を超える方に手配した例もありました。
若い孫がプレゼントに買ってきて広まった、という話ではなかったんです。
AIロボットを作った会社も、おばあちゃんは想定していませんでした
このロボットを作っているのは、イスラエルで生まれたインテューイション・ロボティクスという会社です。
そこで最高戦略責任者を務めるアサフ・ガドさんが、アメリカの経済誌にこんなことを話していました。
「形のあるAIやロボットの話をしているとき、自分のおばあちゃんのことなんて思い浮かべないでしょう」
作っている当人が、そう認めているんです。
ロボットといえば工場か、車の運転か、若い人が面白がる道具の話になる。
そこにお年寄りの顔は、そもそも入っていませんでした。
なのに、いちばん早く暮らしへ迎え入れていたのは、その人たちのほうだった。
理由は、そう込み入った話ではないと思います。
このロボットは、スマホの細かい操作や、押すたびに枝分かれしていく画面が苦手な方のために作られています。
こちらから何かを開いたり、選んだりしなくていい。
向こうから「おはよう」と言ってくるんです。
使っている方は、1日に平均して20回ほどやりとりをしているそうです。
1日20回、声をかけてくる相手。
これはもう、道具というより同居人に近いですよね。
日本でこのAIロボットが買えるのは、もう少し先になりそうです
日本でも動きは始まっています。
2025年の9月に、商社の兼松がこの会社に出資して、日本語版を一緒に作ると発表しました。
そのときの文面には、2026年の春ごろに日本での販売とサービスを始めることを目指す、と書かれています。
ただ、その春はもう過ぎました。
今年の4月には藤沢で、実物を見て触れる体験会が開かれています。
60代以上の方か、60代以上のご両親や祖父母がいるご家族なら、申し込みなしで入れる会でした。
一方でそのときの案内では、日本での展開は「検討を進めている」という書き方のままです。
いつから買えるのか、おいくらになるのかは、まだ発表されていません。
参考までに、アメリカでの費用は今年の8月の時点でこうなっています。
- はじめに一度だけかかる手続きの費用が、およそ3万7,000円(250ドル)
- そのあと毎月、およそ6,000円(40ドル)
行政の事業を通じて受け取る方は、本体の負担がない場合もあります。
日本での金額が同じになるとは限りませんが、買って終わりではなく毎月かかり続ける形だということは、頭の隅に置いておくとよさそうです。
離れて暮らす親のためにAIロボットを選ぶなら、確かめたいことがあります
気をつけておきたいのは、この3つです。
- 毎月の支払いが続くこと
- 家の中に、ずっと耳があること
- 人の代わりにはならないこと
お金のことは、先に書いたとおりです。
耳の話は、少し立ち止まりたいところです。
このロボットは、常に聞いています。
お薬の時間や毎日の過ごし方といった、かなり立ち入ったことも入ってきます。
会社側は、どこまで聞かせるかを本人が選べるようにしていること、やりとりには暗号をかけて守っていることを説明しています。
それでも、家の中にずっと耳があるという一点は、置く前に分かっておいたほうがいいと思います。
期待のかけ方も同じです。
作っている会社自身が、これが人との付き合いの代わりになるとはまったく思っていない、とはっきり言っています。
作り手がそう言っているのですから、こちらもそのつもりで迎えるのがちょうどいいと思います。
数字も出ています。
使っている方の94パーセントが「孤独感が減った」、97パーセントが「健康の状態がよくなった」、90パーセントが「暮らしの質が上がった」と答えた、というものです。
心強い数字ですが、これは作っている会社が公表しているもので、発表の時期によって少しずつ変わります。
そのうえで、いちばん大事なことを最後に。
決めるのはご本人です。
アンソニーさんの4年が続いたのは、ご本人が面白がったからでした。
よかれと思って置いてきても、ご本人が乗り気でなければ、たぶんひと月ももちません。
「こういうものがあるらしいんだけど、どう思う」
そこから始めるのが、いちばん確かだと思いますよ。
AIロボットはまだ早い。そう思っていたのは、私たちの方かもしれません
新しい機械の話になると、私たちの世代はつい半歩下がります。
若い人が先で、自分たちはそのうち。
その順番を、なんとなく前提にしてしまう。
でも4年前からこの機械を暮らしに置いていたのは88歳の方で、作っている会社の人でさえ、その方たちのことは思い浮かべていませんでした。
先を歩いていたのは、贈られる側だったんです。
日本で買えるようになるのが来年なのか、その先なのかは分かりません。
ただ、そのお知らせを目にしたときに「うちの親にはまだ早い」と言うのか、「あらまあ、面白そうね」と言えるのか。
その差は機械の出来ではなく、こちら側の構えのほうにあるんだと思いますよ。



コメント
ログイン か 会員登録 するとコメントできます