1日で37000人が見た、終わらないAI動画ライブ配信の正体

プロンプト画伯
プロンプト画伯

@promptpainter 62本

サムネイル

動画生成AIにプロンプトを投げて、出来上がるまで席を立つ。

動画を触ったことがある人なら全員やっている待ち方だと思うんですが、その前提を正面から壊した配信が2026年8月末から止まらずに動いています。

チャットに一言打ち込むと、それが次の映像になって流れてくるんです。

チャットに打った一言が、そのまま次の映像になって流れてくる

infiniteslop.ai を開くと、いきなり映像が流れています。

誰かの一言から生まれたクリップが、次々に切り替わっていく。

画面の横にはチャット欄があって、そこに書き込んだ文章がそのまま次のクリップの指示になります。

バナナ、猫、宇宙、ニュース、ゲーム番組。

カテゴリが並んでいて、視聴者は投票で次に流れるものを選べます。

今何人が見ているか、自分の順番が何番目か、いま生成中かどうかまで画面に出ます。

名前の Slop は、AIが吐き出す粗製濫造コンテンツを指す蔑称です。

メリアム・ウェブスターが2025年の Word of the Year に選んだくらい定着した言葉で、それを自分から番組名に掲げている時点で、この配信の性格はだいたい伝わると思います。

ただ、驚くべきなのは映像の中身ではありません。

順番が回ってきてから映像が出るまでが、異常に短いことです。

種明かしは、5秒の動画が3秒で出来上がること

見る時間より作る時間が短くなった動画生成を砂時計と絵筆で表した水彩イラスト

動かしているのは、fal が MiniMax のオープンウェイトモデル H3 をポストトレーニングした H3 Max というモデルです。

fal の発表によると、768p の5秒動画がおよそ3秒で出来上がります。

5秒の映像を作るのに3秒。

見るほうが長い。

ここが今回の閾値です。

これまでの動画生成AIは必ず「作る時間 > 見る時間」でした。

だから完成を待って、ダウンロードして、あとで見る。

この順番が逆転すると、生成した端から流し続けられるので、配信というものが成立してしまう。

速度の数字はいくつか出回っているので整理しておきます。

fal の公式発表では、MiniMax の公式エンドポイントと比べたスループットが35倍、同等品質の他モデルとの比較が平均15倍(いずれも fal 社の計測値)。

一方で、配信を作った本人は自分の投稿で「H3 を50倍速くしてもらった」と書いています。

食い違って見えますが、比較している相手が違うだけです。

コストも出ています。

768p なら1秒あたり6円ほど。

ローンチ記念の半額なので、9月7日以降は倍の12円くらいに戻ります。

5秒のクリップ1本で30円前後という計算です。

画像生成をやっている人ほど、この数字の意味が刺さると思います。

投げて、違うなと思って、単語を1つ変えてまた投げる。

あの雑に回せるループが、動画でも成立する価格と速度になったということなので。

作ったのはNomad List創業者のピーター レベルズさん

1人で40以上のプロダクトを作ってきたインディーハッカーの仕事机を描いた水彩イラスト

組み上げたのはピーター・レベルズ(Pieter Levels)さん。

オランダ出身で、デジタルノマド向けの都市情報サイト Nomad List と、リモート求人サイト Remote OK を作った人です。

共同創業者も社員も外部資金も持たず、40以上のプロダクトを1人で公開してきたインディーハッカーで、Nomad List も Remote OK も Product Hunt で1位を取っています。

面白いのは、Infinite Slop 自体はレベルズさんの発案ではないことです。

公開時の記事で本人がはっきり書いていて、元になったのは marcantoinefon さんと rehan shei さんがやっていた配信。

それを見て、自分の手で組み直したのがこれです。

動かすコストが高いので fal がスポンサーに付いた、とも書いてあります。

時系列を並べると、この人の速さが見えます。

fal が H3 Max のプレスリリースを出したのは9月1日。

レベルズさんが「昨日37,000人が見た」と書いたのは8月30日です。

モデルが正式に発表される前に、もう配信として組み上がって人を集めていた。

新しいモデルが出たときに、まずベンチマークを取る人と、まず何か動くものを作って人前に置く人がいます。

レベルズさんは完全に後者です。

支離滅裂なのに目が離せない、1分に4本という制限のせい

ずっと見ていられる理由は、映像のクオリティではありません。

15秒のクリップが1分に4本。

これがこの配信の処理能力の上限で、レベルズさん自身も「混んでくると全員のリクエストは生成されない」と制限として認めています。

つまり自分が打ち込んだ一言が採用されるかは、その瞬間の混み具合次第です。

これが効いています。

通れば自分の言葉がすぐ映像になって、見ている全員の画面に流れる。

通らなければ流れない。

ただのコメント欄が、当たるか分からない抽選になっています。

課金で優先順位を買えるようにしたら、という提案も出たそうですが、本人は断っています。

「そのほうがつまらない。今の4chan っぽい、Hoodmaps っぽい感じが好きだ」という理由でした。

Hoodmaps はレベルズさんが2017年に出した、住民が自分の街を落書きで色分けする地図サービスです。

整えないほうが人が残ることを、過去に自分で確かめている人の判断ということになります。

映像のほうも、AIは前のクリップとつながるように話を続けようとします。

ただし投げ込んでいるのは全員別人なので、猫の話から宇宙に飛んで急にニュース番組になる。

それでも文脈をつなごうとするので、破綻の仕方がいちいち可笑しい。

レベルズさん本人も「見ていると妙に中毒性があるし、もちろんディストピアでもある」と書いています。

まとめ 画像でやってきた試行錯誤が、そのまま動画に来る

Infinite Slop はネタ企画です。

作った本人がディストピアと言っているくらいなので、そこは疑いようがありません。

ただ、その裏で起きた「生成が視聴より速くなった」という一点は、動画に関わる人全員にとって節目です。

画像生成をやってきた人なら分かると思うんですが、あの分野で腕が上がったのは、1枚出して違うなと思って単語を1つ変えてまた出す、を延々やれたからです。

回転数がそのまま経験値になった。

動画は長いあいだこれができませんでした。

1本待つのに数分かかると、試行錯誤が試行錯誤にならないので。

5秒の映像が3秒、1本30円。

この条件なら、画像でやっていた雑な回し方が動画にそのまま持ち込めます。

センスじゃなくて言語化だ、という話が動画側にも来るということです。

まずは infiniteslop.ai を開いて、チャットに一言投げてみてください。

自分の言葉が映像になって返ってくる感覚は、スクリーンショットでは伝わりません。